第179話:予定外のサバイバル生活 46

 ……さて、結果から伝えようか。


「全く問題なかったな! あっはっはー!」


 正しいルートを通って進んだ雷雨地域だが、よーく観察すると誰でも分かるように雷が落ちない場所というのが決まっていた。

 不規則に見えて規則的だったわけで、鑑定スキルはその雷が落ちない場所を通ってくれていたのだ。

 雷が落ちないルートという事は、そこに底なし沼が出来上がる事もない。

 当然、ルートを頭の中に叩き込んできたユリアも無事で、俺たちは誰一人として欠ける事なく雷雨地域を抜ける事に成功していた。


「いや、問題がなかったわけじゃないぞ、真広!」

「抜けた瞬間に魔獣が殺到してきたじゃないのよ!」


 しかし、俺の言葉に対して新と円が声を大にして否定してきた。

 ……まあ、確かにその通りなんだけどな。

 雷雨地域を抜けた途端、その先を縄張りにしていた魔獣が一斉にユリアへ襲い掛かったのだ。

 嬉々として戦おうとしていたユリアだったが、そこへ颯爽と駆けつけたのがハクであり、グレゴリだった。

 二匹は魔獣の勘だろうか、雷が落ちない場所を瞬時に察知して雷雨地域を駆け抜けていき、ユリアへ襲い掛かる魔獣に食らいつき、薙ぎ倒してしまったのだ。


「確かに数は多かったけどさー! 私が倒したのが一匹だけってのはどうかと思う!」


 そこに不満を募らせたのが、助けられたはずのユリアだった。

 レベル上げがしたいわけではなかったはずなのだが、魔獣を目の前にしたら戦いたくなったらしい。

 ……お前、マジで身も心も脳筋になったんだな。


「あの数を一人で倒すのは無理だろ! それに、一匹倒すのもやっとだっただろうが!」

「うっ!? ……まあ、それはそうだけどさぁ」


 まあ、ユリアが焦る気持ちも分かる。

 俺たちと合流してからつい先日まではユリアが主戦力になっていた。

 合流してからの魔の森開拓、王都にも一緒に向かい、シュリーデン国を攻めた時だって大活躍だ。

 シュリーデン国から戻ってきても最前線で活躍をし続けていたユリアだが、俺たちが森谷の下に転移してからは一気に逆転され、その差も一気に開いてしまった。

 今のユリアは、円が感じていた以上に足手まといだと勘違いしているかもしれない。


「……なあ、ユリア。マジで無理はするなよ? ここまで来てお前に何かあったら、俺は俺を許せなくなりそうだから」

「なんでそこで桃李が落ち込むのよ?」

「だって、結果が分かっている事を止める事ができなかったって事だろ? そんなもの、俺の存在意義がなくなるのと同じじゃないか」

「いやいや、そこまで考える必要なくない? ってか、私の命、重すぎるし」

「そりゃそうだろう。言っておくけど、特級職とか戦力とか全く関係なしに、俺はお前を数少ない友達だと思っているんだ。目の前で友達が殺されるところなんて、見たいわけがないだろう」


 俺の言葉がどれだけユリアに響くのかなんて分からない。

 だけど、今の俺にできる事はこれくらいなものだからやれる事はやっておきたい。


「……あ、そう。そっか。うん、そうだね、ごめん」


 あまり期待してはいなかったのだが、思いの外ユリアには響いてくれたようだ。

 これで少しでも無茶をするのが減ってくれれば御の字である。……だって、サポートするこっちの身にもなってくれよ。マジで面倒だから。


「ねえ、桃李君。雷雨地域を抜けたけど、大樹さんのところまではあとどれくらいあるのかな?」

「それよ! 桃李、早く鑑定してちょうだい!」

「ん? あ、あぁ、分かった」


 円の言葉に乗っかる形で突然元気を出したユリア。こいつ、もしかして従魔を早く譲られたいから急いでいたのか?

 そういえば、グランザウォールに戻ってくる時にも従魔の話をしていたし、従魔がいれば騎士団長にも勝てるかもみたいな事も言っていたっけ。

 ……とりあえず、さっさと鑑定を掛けるか。ユリアの怒気がこもった視線が痛すぎる。


「鑑定、森谷大樹の家の場所」


 ……お、意外と近いかも。

 という事は、当時の勇者たちもこの辺りまでしか来られなかったって事なのかな?

 まあ、森谷が復活してから暮らしやすい場所まで戻ってきた可能性もあるし、合流したら直接聞いてみよう。

 今は合流する事の方が大事だからな。


「まあまあ近いな」

「そうなの! やったー! これで私にも従魔が~」

「あ、やっぱり」

「そりゃ当然でしょう! どんな従魔かしら~。ハクみたいにモフモフ? それともサニーみたいにかわいい系かな~? それともグレゴリみたいに頑丈で私みたいにパワーファイターみたいなタイプかも!」


 ……どんなタイプの従魔でも問題ないんだな。

 俺は内心で呆れながら……いや、俺だけではなくこの場にいる全員が呆れたようにため息をつきながら、指示した方向へ歩き出したのだった。

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