第180話:予定外のサバイバル生活 47
しばらく進むと気候とは関係ない、レベルの高い魔獣が出てくるようになってきた。
ハクは問題なさそうだが、グレゴリは円を守るために防御に徹している。
人間の中では現在最強戦力である新ですら、単身だと果物を食べてからでなければ戦えないという強さだ。
しかし、見覚えのある魔獣が見え隠れしている事から、森谷の家が近づいているという思いが徐々に湧き上がってくる。
「ライアンさんたちは全員で一匹を倒すようにしてください! 円はグレゴリと一緒にサポートを! 新も無理はするな、ハクと連携して戦うんだ! サニーは俺から離れるなよ! 俺が死んじゃうから!」
「ビギャ!?」
下級職や中級職の面々は果物を食べても厳しい戦いになっているが、それでも一匹に集中して攻撃を加えれば倒すことができる。
レベルも順調に上がっており、今後の開拓が楽になるのも嬉しい限りだ。
しかし、ここまで来ると俺は戦力として計算ができなくなる。バナナを食べてようやく魔剣を三回振れるようになる程度。
耐久力1000以下なら必ず切断できる魔剣とはいえ、当たらなければ意味もないし、使いどころも難しい。
というか、この辺りに来ると耐久力1000越えの魔獣も増えてくるので、魔剣を使っても倒せないとなると俺には完全にお手上げだ。
サニーであれば他のみんなと協力して戦う事ができるし、足止めに徹してもらえば一匹でもそれなりに戦える。
……まあ、俺もやってやれない事はないんだけどな。
「桃李君! こっちは終わったよ!」
「真広! こっちも終わったぞ!」
「でも、奥からまだ来るわよ!」
円や新から報告を受けたものの、ユリアからはさらに魔獣が迫ってきているという焦り混じりの声が響いてくる。
俺、円、新はまだ戦えるものの、他のみんなは疲れ切っている。ユリアですらそうなのだから、あまりに危険な状況だ。
「鑑定、全員で生き残る方法」
……は? ちょっと待て、嘘だろ?
「どうしたの、桃李君?」
「真広、どうした?」
「ちょっと、桃李!」
三人から声が掛けられるが、俺は予想外の表示に困惑を隠せない。
どうして、今このタイミングで、この表示が出てきてしまうのか。
お前は本当に、味方なのか? ならば何故、どうしてこんな事になったんだ?
「……鑑定が、作動しない」
「ど、どういう事ですか、トウリさん!」
「分からない! ……だが、確実な事が一つだけある。それは――」
全員の視線を浴びながら、俺は表示された内容をその場で口にした。
「――【アンノウン】。これを引き起こしているのが、森谷だっていう事だ!」
お前は本当に、俺たちの味方なんだよな、森谷!
「……どうしよう、桃李君?」
「……本当に、森谷さんが?」
俺だって困惑が尽きない。しかし、先ほどの鑑定で【アンノウン】としか表示されないのであれば、生き残るために別の鑑定を行うしかない。
一つ目はこの場からの撤退。ルートはすでに覚えているし、忘れていればもう一度鑑定を掛ければ問題ないが、後ろから攻撃を受ける危険が伴ってくる。
二つ目は魔獣を倒しての前進。こちらの方が危険を伴うが、数によっては果物を食べての掃討、切り札まで使えばやってやれない事もないが、もし森谷が敵になっているのであれば正直なところ、俺たちに勝ち目はなくなってしまう。
しかし、俺は森谷の事を信じたい。別れ際に見せた寂しそうな感情は、本物のはずだから。
「……みんな、俺の我儘を聞いてくれるか?」
時間はない。もし、誰か一人でも戻りたいと口にしたなら、俺は迷いなく戻るつもりだし、殿を受け持つつもりでもいた。
「当り前だよ、桃李君!」
「ここまで来て、引き下がれないわよ!」
「俺は森谷さんを信じている!」
円、ユリア、新が笑みを浮かべながらそう口にしてくれる。
「我々も微力ながら、協力いたします!」
「お任せください、トウリ様!」
「マヒロに命を預けるわよ!」
ライアンさん、ヴィルさん、リコットさんが剣を構える。
「先生は生徒を信じるものよね」
「わ、私も、頑張ります!」
先生とレレイナさんが魔法を放つ準備を整えてくれた。
「……ありがとう、みんな! 鑑定、魔獣!」
だいぶ言葉を省いた鑑定だったが、俺の真意を察した鑑定スキルが迫る魔獣について事細かに鑑定を行ってくれる。
やはり、森谷は俺たちに魔獣を倒して欲しいと思っているのかもしれない。生き残る方法では【アンノウン】と出たのだが、魔獣への鑑定は問題なく反映されたからだ。
なんだよ、森谷。これが最後の試練のつもりなのか? だったら、乗り越えてやるさ。
俺だけの力でもなく、異世界人の力だけでもなく、この世界に生きる人間の力も借りて、全員で乗り越えてやる!
「指示を出す! 全員で生き残って、森谷をぶん殴るぞ!」
俺は気合いを入れ直すと、視界に飛び込んできた魔獣を睨みつけながら大声で指示を飛ばし始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます