第175話:予定外のサバイバル生活 43
続いての報告はグウェインたちからなのだが……一日や二日でそこまで報告する事なんてあるだろうか。
誰が話をするのかと思っていたら、立ち上がったのは新だった。
「まずは端的に伝えさせてもらうが、俺たちは――元の場所から1キロ先まで開拓を進める事ができた」
「…………はい?」
いやいや、待て待て! 1キロって言ったか? それ、結構な距離だよな? こんな短期間でそこまで開拓を進めたのか?
「ど、どれだけ無理をしたんだよ!」
「いや、俺たちは全く無理をしていない。そうだよな、ハク?」
「ガウガウ!」
……あ、そっか。陛下にも説明していたじゃないか。
サニーは強い。だけど、ハクやグレゴリはもっと強いんだって。
この二匹がいれば確かに1キロや2キロ、あっという間に――
「いやはや、アラタ様の成長にも驚きました! すでに私では全く手に負えなくなっておりますよ!」
「言い過ぎですよ、兵士長」
「八千代さんの魔法もすごくなっていたわね。もう私じゃあ勝てないかも」
…………そうだった。新も円も化け物じみた成長を遂げていたんだった。
新のステータスは転移前に果物を食べた時と遜色なく、むしろそれ以上の力を得ているかもしれない。
円だってレベルも上がり、さらに森谷の指導で強力な魔法を使えるようになっている。各種魔法スキルのレベルも上がっているし、その威力は想像もしたくないな。
「すごいな。って事は、宿場町って今はどうなっているんだ?」
「1キロ先に行ける人選は決まっているし、他の兵士たちはみんなそこに駐屯しているよ。まあ、もっと先まで開拓が進めば新しい宿場町を造る必要はあるかもしれないけどね」
魔の森の開拓が進んで宿場町が増えていけば、そこに暮らす人々も出てくるはず。そうなれば、グランザウォールの南に新たな都市が出来上がるのも時間の問題だろう。
ここまで一気に開拓が進むのは予想外だったけど、良い方向への予想外なので気にする事でもないか。
「そうなると、人材派遣の問題が出てくるのか。グランザウォールから宿場町や新しく造るかもしれない宿場町に移住できる人っているのかな?」
「今の宿場町に関して言えば、ある程度の人数は確保できるかもしれないよ。最近では冒険者も多くなっているみたいだし、商魂たくましい人なら大歓迎かもしれないな」
「観光というわけではありませんが、興味を持ってやってくる人も増えてきていますよ」
グランザウォールからだけではなく、さらに外からも流入があるという事か。
なら、その辺りの問題は鑑定を使わずともアリーシャとグウェインに任せてしまって大丈夫そうだな。
「最近では兵士のレベルも上がっております。最初に開拓を行った付近の魔獣であれば、複数で掛かれば倒せてしまう程ですよ」
「それはすごいですね。最初の頃はライアンさんでも果物がないと厳しかったでしょうに」
「いやはや、お恥ずかしですね」
そこは恥ずかしがるところではない気がするんだけど……とはいえ、全員があの頃のライアンさんレベルにまで達していると考えると、果物がなくてもある程度は警備も万全だという事だ。
「その他だと、うーん……って、あれ? みんなが活躍しているって事は、俺の立場はどうなるんだ?」
魔の森の開拓を進める事が俺の目的の一つになってはいたけど、開拓も維持も問題なさそうだし、移住に関しても適任者がいる。
……もしかして俺、必要がないのかも?
「もちろん、トウリにはこれからも僕たちを助けて欲しいと思っている。実際のところ、1キロ先まで開拓を進めたんだけど、そこから先の開拓で困っていたんだ」
「新や円、それにハクやグレゴリがいてもか?」
それに、二人が果物を食べたらさらに強くなるはずだ。それでも困る事って、いったい何なんだ?
「1キロ先にあったもの……いや、場所と言った方がいいか。そこは――気候が変化する土地だったんだ」
気候が変化する土地。
それは、最初に魔の森について説明を受けた時に聞いた内容そのものだった。
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