第160話:予定外のサバイバル生活 29

 翌日となり、俺は魔導具を片手に家を離れて森の中にいる。

 傍らにはサニーがおり、護衛として新とハクが同行している。

 たった一度の断絶の刃を放つため、レベルが比較的に低い魔獣を探し歩いていた。


「……魔獣が、いない!」


 しかし、俺の予想とは異なり魔獣は忽然と姿を消してしまっている。

 だが、これは当然の結果であり、隣を歩く新が申し訳なさそうに口を開いた。


「……すまん、真広。俺たちがレベル上げと称して、この辺りの魔獣を狩り尽くしてしまったんだ」

「クゥゥン」

「ギュルルゥゥ」


 鑑定を掛けても周辺に魔獣の影も形もなく、離れたところにはいるもののレベルが高くて俺一人では魔導具を使ったとしても倒せない相手だ。

 経験値独り占めをするなら確実に倒せる相手を選別しなければならない。


「……なあ、真広。今日の独り占めは難しいんじゃないのか?」

「そうなんだけど……そうなんだ……もう、答えは出ているんだよ……」


 そう、俺の鑑定スキルがすでに答えを導き出している。独り占めはできないのだと。

 俺がそう呟くと、新はハクと顔を見合わせて苦笑しているが、俺としては諦めきれない。

 だって、せっかく魔導具を手に入れてからの初陣なのだから!


「……ピキャー」

「ん? どうしたんだ、サニー?」


 そんな事を考えていると、サニーが俺の頭の上に乗っかってツンツンしてきた。

 俺が声を掛けると翼を羽ばたかせながら目の前でホバリングすると、こんな提案を口にしてきた。


「ピキャ! ピッピキャキャーキャー!」

「サニーが弱らせた魔獣を俺が倒せば、そこまで経験値が減る事はない、だって?」

「ピキャキャー!」


 ふむ……確かに、サニーの言う通りだ。

 そもそもサニーの主人として経験値をおすそ分けしてもらっていた。ならば、彼が魔獣を弱らせる分には、その分の経験値までおすそ分けしてもらえるという事だ。

 主人として従魔の経験値をほぼ独占する様な格好になるのはどうかと思うけど、今は俺が強くなる事を第一に考えなければならないので、サニーの提案を受け入れるべきだろう。


「……分かった、それが一番かもしれないな」

「ピッキャキャー!」


 俺が了承を示すと、サニーは両手でパチパチしながら俺の周りをクルクル回り始めた。

 そんなに嬉しかったのかなと思いつつ、サニーの反応には俺も嬉しくなってしまう。


「それじゃあ、真広の方針も決まったところで向かうか」

「あぁ。待たせてすまない」

「構うものか。俺がどれだけ真広の世話になっていると思っているんだ?」

「……そこまで世話を焼いた覚えはないんだが?」

「はいはい。お前ならそう言うと思っていたよ」


 いやいや、思っていたと言われても、マジでそうなんだが。むしろ、俺の方が世話を焼かれていると思うんだけどなぁ。

 とはいえ、新が問題ないならそのまま進んでしまおう。そして、サニーと連携して魔獣を倒し、そのまま撤退するんだ。


 魔獣のいない森の中をしばらく進むと、ようやく魔獣の姿が視界に入って来た。

 方針を決めてから一時間近く歩いてきたので、結構な距離だと思う。

 しかし、それだけの距離を歩いてきた分、目の前の魔獣はレベル110と相当な強さを持っていた。


「本当に真広とサニーだけで大丈夫なのか?」

「あぁ。鑑定結果でも問題ないって出てるし、俺がミスらなければ大丈夫だろう」


 何せ魔導具の初陣である。

 断絶の刃が強力な魔法である事は間違いないが、どんな形で発動するのかは森谷に聞いただけで実際には目にしていないのだ。

 こんな事なら、森谷に一度試し撃ちをしてもらうんだったかなぁ。


「それじゃあ、俺たちは周りの魔獣を片付けてくる。そっちには行かせないから、安心して倒してくれ」

「助かるよ、新」


 簡単なやり取りを終えた新は、ハクと共に正面の魔獣を避けて移動していく。

 俺とサニーはその場に留まり鑑定による攻撃の合図を待っていた。


「……ビビ……ギギ……」

「待て、もうちょっと待ってくれ、サニー」

「……ビギ……」


 ……うーん、まだだろうか。このままではサニーが勝手に飛び出してしまいそうだ。

 そんな事を考えていると、ディスプレイ画面にカウントダウンが表示された。

 10……9……8…………3……2……1……。


「ゴー!」

「ビーギャー!!」


 俺の頭を蹴りつけて飛び上がったサニーは、翼を大きく動かして電光石火の突進を見舞っていく。

 俺たちの声に気づいて振り返った牛頭人身の魔獣――ミノタウロスだったが、戦斧を握りしめていた右腕が加速力の乗ったサニーの突進によって一撃で吹き飛んでいく。


『ブグオオオオアアアアァァアアァァッ!?』

「ビギャー!」


 次いで吐き出された火球がミノタウロスを包み込み、俺では傷一つ付ける事のできないだろう強靭な体毛を焦がし、焼き尽くしていく。


「ピキャー! ピッピキャー!」

「お、俺の出番か」


 レベル30とは思えない強さを見せているサニーに驚きつつも、彼の合図とディスプレイ画面の指示が一致したので、俺は草むらから飛び出して魔導具を起動させた。


「くらえ――断絶の刃!」


 うおぉぉっ!? ま、魔力が、一気に吸い取られていく!

 急な脱力感に見舞われながらも、俺は魔力が吸収されていく感覚がなくなったタイミングで魔導具を振り抜いた。


 ――ブオンッ!


 空気を切り裂く音が聞こえてきたかと思えば、音の後に周囲の木々が大きく揺れる。


『……ブォォ?』


 そして、変な鳴き声を漏らしたミノタウロスの体が上下にズレていき、真ん中からぱっくり左右に、文字通り断絶されていた。


「……うわー」

「……ビギャー」


 あまりに凄惨な光景に、俺とサニーは嫌な声を漏らしてしまう。

 とはいえ、ミノタウロスを倒したところで俺のレベルが16に上がった事もあり、これも自然の摂理なのだと言い聞かせて明日からも頑張ろうと思えたのだった。

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