第161話:予定外のサバイバル生活 30

 こうしてレベル上げを進めていく中で、俺のレベルは三ヶ月が経った頃には20にまで上がった。

 これもひとえにサニーのおかげである。

 とはいえ、レベルが上がるにつれて俺の魔力も上がっていき、今では600にまで成長している。

 レベル100を超える魔獣も一撃で仕留める事ができるようになったのも、レベル上げが順調に進んで要因の一つだ。

 ……まあ、魔力以外の数値はそこまで増えていないので、魔導具を使わずに戦う事はまだまだできないけどな。


「――さあ、みんな。戻る準備はできたかな?」


 そんな事を考えていると、森谷が声を掛けてきた。

 俺たちはリビングに集まっており、これから転移魔法陣を使ってグランザウォールへ戻る予定だ。

 とはいえ、荷物はほとんどない。

 思い掛けずにこちらへ来てしまった、というのも理由の一つなのだが、それ以上に俺たちは森谷から非常に便利な道具を貰っていた。


「大丈夫です、大樹さん!」

「しかし、森谷さん。本当によかったんですか?」

「あぁ、構わないよ。僕が持っていても使う事はないし、みんなの方が使うでしょう――魔法鞄」


 そう、魔法鞄だ。

 アリーシャしか持っていなかったとても貴重な道具で、俺たちはその中にこの辺りで倒した魔獣の素材をこれでもかと突っ込んでいる。

 正直、これを王都で売り払ったら一財産どころの騒ぎではないだろう。何世代にもわたって働かずに暮らせるだけのお金を稼ぐ事ができるかもしれない。

 そんなレベルの素材が、マジでこれでもかと突っ込まれていた。


「……森谷はこの素材、使わないのか?」

「僕かい? 僕は使わないよー。だって、この辺りの魔獣素材じゃあ、僕には合わないからねー」


 そうだった。こいつは、レベル150の神級職だったや。


「この素材を有効活用して、魔の森をしっかりと開拓してね」

「まあ、戻ってくる分には転移魔法陣があるから楽なんだけどな」

「そうだけど、せっかくレベル上げもして従魔も譲ったんだから、実力で来て欲しいかなって思うよ?」

「なんでそんな面倒をしないといけないんだ? それに、森谷を助けるための時間ももったいないしな」

「あははー。僕の事は二の次、三の次で構わないよー?」


 そうは言っているが、俺たちがいなくなってからしばらくは寂しくなるに違いない。

 ずっと一人だったところに俺たちがやってきて、また去っていく。この反動は相当でかいはずなのだ。


「……森谷」

「なんだい?」

「……泣くなよ?」

「泣かないよー。っていうか、涙が出ない。だって、スケルトンだもの!」


 胸を張りながらドヤられてもなぁ。

 まあ、今のところそこまで落ち込んでいないようでよかった。


「そろそろ行くか?」

「そうだね。円ちゃんやアリーシャさんも心配しているだろうし」

「俺もアデルリード国に来てからすぐにこっちへ来てしまったからな。まだまだ働かないといけない」

「円ちゃんも新君も真面目だねー。それに比べて桃李君は……」

「何か言ったか?」


 何やら意味深な感じで俺の名前を呟いていたが、気のせいだろうか。


「ふふふ、なんでもないよー」


 会話が一段落したところで俺たちが外に出ようとすると、外ではサニーたち従魔がこちらを見ていた。

 ……いや、正確にはこちらをではなく、森谷を見ていたんだ。


「……ピピー」

「……クゥゥン」

「……」

「あははー。……なんだよ、君たちがそんなんじゃあ、格好がつかないじゃないかぁ」


 三匹が森谷に近づいていき、体を擦りつけている。

 先ほどは泣かないと口にしていた森谷だが、三匹の反応を見てしんみりしてしまったようだ。


「みんな、しっかりと三人の事を支えてあげるんだよ?」

「ピキャ!」

「ガウッ!」

「……!」

「またこっちに来たら、三人の友達にも従魔を譲るからね。そしたら、四匹でしっかりと頑張るんだよ」


 森谷の言葉にしっかりと頷いた三人は、しばらくして体を彼から離していく。

 そして、それぞれの主人の隣まで移動すると、改めて振り返った。


「それじゃあ、俺たちは戻るよ」

「今日までありがとうございました、大樹さん!」

「また戻ってきます。その時は、また一緒に修行しましょう!」

「あぁ。期待して待っているからね」


 元々飛ばされた場所からではなくても、森谷は転移魔法陣を設置した座標を覚えていた。

 家の前で何やら詠唱を始めると、俺たちが立っている地面に転移魔法陣が光と共に浮かび上がってくる。


「それじゃあ……またね」

「「「いってきます!」」」

「あはは……君たち、戻るんじゃないか」


 森谷が口にしたように、いってきますという言葉は正しくないのかもしれない。

 だけど、俺たちは森谷がいるこの家に戻ってくるつもりなのだから、この言葉に間違いはないのだ。

 光が徐々に強くなっていき、目を開けているのも辛くなってきた時、光の先で立っている森谷が小さく手を振ってくれた。

 そして――俺たちは転移魔法陣が設置されていた場所へと戻っていったのだった。

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