第157話:予定外のサバイバル生活 26
一ヶ月半が経過した頃、アリーシャからメールバードが飛んできた。
いつも通りの定期報告かと思いきや、今回の内容は少々問題のあるものになっていた。
「うーん、どうしたものか」
「どうしたの、桃李君?」
俺が手紙を睨みつけながら唸っていると、心配した円が声を掛けてきた。
「それ、アリーシャさんからの手紙だよね?」
「あぁ。そうなんだけど……とりあえず読んでみてくれ」
口で説明するよりも早いだろうと、俺は円に手紙を手渡した。
そのまま読み始めた円だったが、その表情は徐々に困惑に染まっていく。
「……え?」
「だろう? まさかの内容にちょっとドン引き中だ」
「これ、大樹さんに教えてあげた方がいいんじゃないかな?」
「だよなぁ……ったく、一緒に召喚された裏切り者たちは面倒を残してくれたもんだ」
たくさんの説明と共に書かれていた内容を要約すると――タイキ・モリヤは世界を滅ぼさんとする悪魔だとアデルリード国で伝わっている、というものだった。
「たぶん、森谷を犠牲にして魔の森を抜けだした奴らが、ある事ない事を風潮しまくってこうなったんだろうな」
「でも、そんな話は聞いた事がなかったよ?」
「まあ、俺たちが知る由もないだろう。別にこの世界の歴史を知ろうともしていなかったんだし」
それに、異世界人を先祖に持つアリーシャたちがそのアデルリード国で領主を務めているのだから、そこまで大事ではないと思っている。
すぐに引き渡せとか、絶対に連れてくるなとか、殺してしまえとか、物騒な事は書かれていないしな。
「まあ、一応は伝えておくとして、俺は森谷を連れて行く事に関しては諦めないからな?」
「それは私も賛成だよ。大樹さんにはとてもお世話になっているもんね」
俺は魔導具作り、円は魔法の指導、新はレベル上げ。
特に従魔を譲ってくれた事に関しては本当に頭が上がらない。
大事な従魔であり、きっと森谷の話し相手にもなっていただろう彼らだ。
返し切れない程の恩を受けているので、何をしてでも森谷をこの場所から外に出してやるんだ。
「そういえば、森谷は?」
「今日は御剣君と一緒だよ」
「そうなのか? 珍しいなぁ」
新のレベル上げはハクがいるし、たまに俺も一緒に行っているけど、森谷がついてきた事は一度もなかった。
現状、新のレベルは43にまで上がっている。一番高いステータスの数値は筋力で1060と四桁にまで届いてしまった。
森谷やハクにはまだまだ及ばないが、レベルの低い魔獣の相手であれば一人でも倒せるほどになっている。
……新、アデルリード国でも最強の一人になったんじゃないだろうか。
しかし、だからこそ森谷が新とハクと共に森に向かったというのは気になってしまう。
「……特別強い魔獣でも現れたのかな?」
一度気になってしまうと頭から離れなくなってしまい、俺は鑑定を掛ける事にした。
「鑑定、新と森谷とハクの居場所と今の状況」
森谷は半径5キロ以上先には行けないので遠くには行っていないはず。
鑑定結果が出ると、俺は目を見開いてしまう。
「……はい?」
「ど、どうしたの?」
変な声を漏らしてしまったからか、円が不安そうな声を漏らした。
俺は無言のままディスプレイ画面を円へ開示する。
「……た、大樹さんを相手に、戦っているの!?」
「模擬戦ってやつかな? でも、どうして二人が?」
円の疑問はもっともだ。
この周辺には魔獣が多く生息しており、わざわざ森谷が模擬戦を買って出る必要はない。
それに、模擬戦では経験値が入らないはずなので対人戦の予定がない限りはそこまで重要視するものではないと思っている。
「……あ! 桃李君、これを見て?」
「ん? なんだ?」
俺が思考を巡らせていると、円が何かを見つけたのか俺のディスプレイ画面を指差している。
そこへ視線を向けると、なんと親切にも模擬戦を行っている理由が表示されていた。
……ごめん、完全に見落としていたよ。
「……なるほどなぁ。魔法を使う相手との模擬戦って事か」
「魔獣も魔法は使っていたけどなぁ」
「あいつらは魔獣の本能に従って魔法を使うからじゃないか? 人間の思考に基づいた魔法の使い方をされたら、近接戦闘がメインの新からすると相当面倒になりそうだし」
サニーだって色々と考えており、まるで人間じゃないかと思う反応を示す時もある。
それは彼が特級魔獣だからだと思うけど、今後そういった強い魔獣と戦う事も増えてくるだろう。
それらを想定しての模擬戦だったようだ。
「……大樹さん、私や桃李君だけじゃなくて、御剣君の事も考えてくれていたんだね」
「……そうだな」
新にはハクを譲っただけかと思っていたけど、ちゃんとみんなを平等に考えてくれている。
これだけ人が良い森谷がどうして裏切られてしまったのか、そして世間的に悪魔と伝えられてしまっているのか……裏切った奴ら、マジで許されないな、うん。
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