第156話:予定外のサバイバル生活 25

 三ヶ月の内の一ヶ月が経過した。

 俺は魔力が少ないなりに結構な数の魔導具を作成している。

 そのどれもが誰でも使えるものであり、生活を楽にさせてくれるものが大半だ。

 何故かというと、グランザウォールに戻った時にアリーシャとグウェインの生活水準が少しでも高くなればと思ってである。

 そして、それらを広めてくれれば二人の評価も上がり、二人の下で働きたいと思う者が増えてくれるはずだ。


「まあ、魔の森を開拓している時点で相当な実績をあげているんだけどなぁ」


 国が主導で行ってもなかなか開拓できなかった魔の森である。そこを開拓しているのだから国からの評価は高いものの、それがどれだけ凄い事なのかを暮らしている人が理解しているのかは怪しいところだ。

 強い魔獣がやって来る場所という曖昧な理解であれば、二人の実績が理解され難いのはもったいない。

 ならば、理解されやすい実績を用意してやればいいだけの話でもある。


「桃李くーん、できたよー!」

「ありがとう、森谷」


 森谷が声を掛けてきたので、俺は作ってくれたものを確認する。

 同じ日本からの召喚者という事で、作ってもらうものも俺が望む形になっている。

 俺が作ってもいいのだが、特段器用というわけでもないし、家を作れるくらいに器用な森谷にお願いしたというわけだ。

 さて、今回森谷に作ってもらったものだが……火力調節ができるコンロ、である。

 一度だけ秋ヶ瀬先生の手伝いで台所に入った事があるのだが、コンロのように火を出す場所はあるものの、その火力を調整する事ができなかった。

 それでも美味しい料理を作ってくれた先生やアリーシャは料理上手なんだろうけど、火力を調整できるようになればさらに美味しいものを食べる事ができるはずだ。

 ……それに、先生が嘆いていたのは火力が弱い、というところだったからな。

 アリーシャは元から使っているし慣れているだろうけど、弱い火力で長々と焼いたり炒めたりするのは面倒らしく、先生は苦笑いを浮かべていたっけ。


「それじゃあ、ここに火力調整の魔導陣を描いて、その上にボタンを取りつけるっと」

「しかし、コンロを作りたいだなんて、またおかしな魔導具だねー」

「そうか?」

「うん。普通はもっと派手なものを作りたいんじゃないかなって思ってさー」


 確かに、魔獣を倒せるような攻撃性の高い魔導具を作るのが一番の理想だが、それは今の魔力量では無理だと分かってしまった。

 ならばと次に優先順位が高いものといえば、生活を良くする道具なのだ。


「しっかし、この一ヶ月で結構な数の魔導具を作ったねー」

「そうだな。そのおかげでこっちの生活も多少は良くなっただろう?」

「まあ、そうなんだけどねー……いやー、参ったよ」


 何が参ったなのだろうか?

 今回はコンロを作ったけど、その前に作ったのがミキサーやハンドミキサーで、他にもお湯が出る蛇口に冷蔵庫、調理機能付きの電子レンジはさすがに作れなかったが、温め機能がついた電子レンジもどきは作れたので、一応は満足している。

 ……こうして見てみると、台所周りのものが多い気がしてならない。


「グランザウォールでの食事に満足してなかったのかい?」

「そういうわけではないんだけどなぁ」


 俺が料理をするわけでもないんだが……まあ、別にいいか。

 後は掃除機とか洗濯機とか、遠くの相手とリアルタイムでやり取りができる魔導具なんかも作りたいな。スマホみたいに検索とかはできなくても、電話のような機能があればありがたい。

 そうなると、一番重要になってくるのは盗聴防止だろうか? それとも、複数作るとしたらちゃんと目的の相手と会話ができるようにすることだろうか?

 両方とも重要な気もするが、それ以上に重要な事はあるだろうか?


「……おーい、桃李くーん」

「……はっ!」

「まーた考え事をしていただろう。早くこっちを終わらせてくれないかなぁ?」

「そ、そうだな、すまん」


 魔導陣の完成をずっと待っている森谷の指摘を受けて、俺は苦笑しながらささっと描いていく。

 一ヶ月も経つと慣れたもので、魔力の使い方もスムーズになっている。

 消火、弱火、中火、強火と火力の調整を加えつつ、熱せられているものが高温になった場合、もしくは上に何もない状態で五分以上火が点けられていたら自動で消えるよう安全対策も思いつく限りで描いていく。

 そうして完成した魔導陣の上に、森谷が手際よくボタンを取りつけてくれた。


「それじゃあ、最初の一押しを桃李君、お願いしまーす!」

「……き、緊張するなぁ」


 今までも最初の起動は俺が行ってきた。

 その度にちゃんと動いてくれるのか、いきなり爆発したりしないかと考えてしまう。

 特に、今回は火を使っているので、電子レンジもどきを作った時と同じくらいには緊張してしまう。


「……それじゃあ、押すぞ!」


 一度深呼吸をしてから、俺は弱火のボタンを押し込んだ。


 ――ボッ。


「……よーし、点いたー!」

「いや、そりゃ点くでしょうよ」

「中火もー、強火もー、問題なく火力が上がって点いているー!」

「変な歌を歌い出しちゃったよ」

「消火はー……消えてくれたー!!」

「うんうん、よかったねー」


 俺のテンションがおかしくなっている横で森谷が冷静に相づちを打っている。これも毎回の事なので二人とも慣れたものだ。

 その後、安全対策の部分も確認を行い、問題なく消火されてくれる事をこの目で確認し、俺はコンロの完成を告げたのだった。

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