第153話:予定外のサバイバル生活 23

 ――……も、もう、許してくれ。


「いい、桃李君! 今後は勝手に無理をしちゃダメだからね!」

「……はい」

「俺たちに相談は必須だ。それと、森谷の事なんだから彼にもちゃんと相談するんだ」

「……いや、それは」

「「言い訳は聞きたくない!」」

「……すみませんでした」


 こんな感じで二人からの叱責が結構な時間で続いている。

 その間、森谷は壁際に立ってこちらを見ているのだが、ただ見ているだけなら俺の事を助けて欲しい。

 いやまあ、森谷が止めろと言っていた事を勝手にやってしまったので、彼に助けてもらえるとは思っていないんだけど。


「……まあまあ、二人とも。桃李君も反省しているみたいだし、それくらいでいいんじゃないかな」


 そんな事を思っていると、森谷から二人を宥める声が掛けられた。

 助けてくれたのかな? ……いや、単に時間が掛かり過ぎていて面倒になっただけかも。


「……まあ、大樹さんがそう言うなら」

「……そうだな。俺たちも言い過ぎたかもしれないし」

「でも、桃李君は今後、絶対に無茶な事はしないように、いいね?」

「……分かった」


 今回は全面的に俺が悪いので何も言い返せない。

 それに、サニーがさっきから俺の胸に額を何度もぶつけてきているので、こいつにも心配を掛けていたみたいだし。……ただ、そろそろ痛くなってきたから止めてもらいたい。


「そ、そうだ! 森谷に朗報というか、伝えないといけない事があるんだ!」

「ん? 僕にかい?」

「あぁ! まだ一部の情報しか分かっていないんだけど、あるんだよ!」


 俺の言葉になんの事なのか当たりを付けたのか、森谷は視線をこちらに向けて固まっている。


「……あるって、まさか?」

「そのまさかだ。お前がこの場から移動できる方法が、あるんだよ!」

「大樹さんが?」

「移動する?」


 森谷の事情を知らない二人が首を傾げている。

 そこで俺は森谷の許可を得た上で、彼が禁忌魔法の代償でこの場から動けない事を二人に教えた。


「……そんな、大樹さん」

「しかし、さっきの真広の言い方だと、その代償を解消する方法があるように聞こえたが?」

「その通りなんだよ、新。ただ、今回もスキルの習得方法みたいにまだ一部の情報しか得られていないんだ」

「んー、つまりあれかい? 魔力がもっと高くなれば、魂の定着を解消して自由に移動できるようになるって話かな?」


 森谷の言葉に俺は大きく頷いた。

 ここにバナナがあればよかったんだが……くそ、無い物ねだりばかりしてしまうなぁ。


「ねえ、大樹さん。私たちはまた、転移魔法陣を利用してこっちに来る事はできませんか?」

「できない事はないけど、どうしたんだい?」

「私たち、ステータスを倍にする果物を持っていて、それを持って戻って来られれば、大樹さんの代償を解消する事ができると思うんです」

「……そんな果物が、あるのかい?」


 おや? 森谷なら知っていると思っていたのだが、どうやら知らないようだ。


「あります。筋力、耐久力、速さ、魔力、器用で果物は変わりますけど」

「ちなみに、魔力はバナナだな」

「バナナか〜。僕は苦手かもなぁ……まあ、今は食べられないけどね!」


 冗談を言える余裕はあるんだな、こいつ。


「しかし、そんな便利なものがあるなら、僕たちも知っておきたかったなぁ。新しく開発された果物なのかい?」

「違いますよ。魔の森で桃李君が見つけたんです」

「……なんてこった。魔の森に生えてる果物なんだね」


 これには本気で驚いたのか、森谷はカタカタ鳴らす事もなく、口を開けたまま固まっていた。


「……それがあったら、僕たちは少しくらい違う未来を見る事ができたのかなぁ」

「……森谷?」

「あ、ごめんねー。なんでもないよ、うん」


 裏切られたとはいえ、元は同じ世界からこの世界に召喚されたわけだし、裏切られるなんて思ってもいなかったんだろうな。

 それを変えられる事ができたかもしれないと分かって、後悔しているのかもしれない。


「……裏切った奴らは、もう死んでいるんだろう?」

「……桃李君?」

「今は森谷しか生きていないんだから、そいつらの事を考えるよりも、これからの自分の事を考えた方が時間を無駄にせずに済むんじゃないのか?」

「ちょっと、桃李君、そんな言い方は……」

「そうだぞ、真広。森谷さんにも気持ちの整理をする時間が必要だろう」


 円と新がフォローしようと俺に声を掛けてきたが、それを遮ったのは森谷自身だった。


「いいや、桃李君の言う通りだね。僕は禁忌魔法で生きながらえた事で、無駄に考える時間が増えちゃったからねぇ。でも、先を見れるなら、そこを考えた方がいいに決まっているよね」

「そういう事だ。ってなわけで、俺たちがグランザウォールに戻ったら、バナナを持ってすぐにまた戻ってくる。その時はお前も一緒にグランザウォールに行く事、いいな?」

「ははは。……それ、確定事項なのかい?」

「当然だろう。お前に拒否権はないからな」


 冗談半分で上から目線で言って見たのだが、森谷は不思議と笑みを浮かべている。

 ……これくらい、無理やり引っ張ってやった方がいいのかもしれないな。

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