第145話:予定外のサバイバル生活 15

 ――そんなこんなで時間は過ぎていく中、こちらからは何度かアリーシャたちにメールバードを飛ばしていた。

 こちらの情報だけでも伝えておけば、無駄な心配をさせる事はなくなるだろうと思っての行動だ。

 本当はあちらの情報を得る事ができれば一番なのだが、メールバードは一度使うと繰り返しは使えないようで、仕方がないと諦めていた。


「え? メールバードを使って、使っていないメールバードを飛ばしたらいいんじゃないの?」


 ……俺がポロリと悩みを呟いた途端、これである。

 いや、悩みの解決方法を教えてもらえたのだから苛立つところではないんだけど、そんな簡単な方法があったかと自分で自分を責めてしまったのだ。

 確かに、メールバードを折る際に未使用の紙を挟んでおけば、アリーシャたちにメールバードを渡す事ができる。

 ついでに飛ばすメールバードに使い方を書いておけば、あちらの情報を得る事ができるってわけだ。


「鑑定士(神眼)で鑑定したら早かったんじゃないかな?」

「いや、頭の中で絶対に無理だって勝手に思い込んでたわ」

「思い込みは良くないよー。そのせいで僕も裏切りに遭っちゃったからねー」


 笑えない発言をされてしまい、俺は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。

 話が戻るとそのままメールバードを送る手筈となり、貴重な魔導具という事もあって準備は森谷がしてくれる事になった。

 俺が森谷と同等のメールバードを作れたらよかったんだが、いまだに同等のものを作るには至っていない。

 多少は防御力を付与する事はできるようになったものの、いまだにこの辺りの魔獣には撃ち落とされてしまうのだ。


「なんか、おんぶにだっこですまん」

「いいんだよー。その分みんながこっちにいてくれるなら、僕も暇にならないからねー」


 それはそうなんだが……ここで俺は一つの提案を口にしてみた。


「なあ、森谷」

「なんだい?」

「お前、俺たちと一緒にここを出ないか?」


 鼻唄を歌いながら折り鶴を折っていた森谷の手が、ピタリと止まった。


「お前、百年以上ずっと一人だったんだろう? 今なら俺たちもいるし、お前の事を説明する事ができる。これからも一人でいる必要はないんじゃないか?」

「……まあ、ね」

「それとも、何か事情でもあるのか? ここから離れられない事情が?」


 まさか畑が大事だ、とか言わないよな。

 まあ、自分で建てた家だし愛着はあるだろうけど、孤独を脱する事ができるならそれに越したことはないだろう。

 そう思いながら答えを待っていると、どうしようもない事情があるのだと教えてくれた。


「……僕は、この場所から動けないんだ」

「どうしてだ?」

「……禁忌魔法を使うと代償がいるって言っただろう?」

「あぁ。だけど、一回目と二回目の代償は受けているだろう? 肉体の腐敗と、骨以外の肉体全ての消失」


 ……こいつ、まさか!


「興味本意で三回目の禁忌魔法を!」

「それはさすがにないよ! 意味もなく禁忌魔法なんて使わないからね!」


 まあ、言われてみると確かにそうか。

 一回目は魔獣を倒すためだし、二回目は肉体の腐敗のせいでやむ無くだしな。


「それじゃあ、別に代償があったのか?」

「そういう事だね。二回目の禁忌魔法の代償がもう一つあってね。それが、魂の定着ってやつなんだ」

「……魂の定着?」


 聞いただけでは想像ができなくて聞き返してしまった。


「そう。僕の魂が、この土地に定着してしまったんだ。だから動けないんだよ」

「でも、移動はしていたじゃないか。俺たちと会ったあの場所まで」

「禁忌魔法を発動した地点から、半径5キロの地点までなら自由に動けるんだけど、それ以上となると無理なんだ」

「……マジか」

「うん、マジマジ」


 めっちゃ軽い感じで返事してるけど、結構重要な事よ、これ。


「使う前は知らなかったのか?」

「知ってたよ。でも、あの時は他にやりようもなかったしねー。それに、まさかこんなところにまで人が来るとは思わなかったんだもん」

「いや、転移魔法陣を描いたのはお前だろうに」

「転移魔法陣がある場所までって事だよ!」


 他に方法がなかったとはいえ、この地に縛られる事に不安はなかったのだろうか。

 それに、ずっと一人で生きていて、逆に死にたいと思う事はなかったのだろうか。


「……死にたいとは、思わなかったのか?」

「禁忌魔法まで使って生き延びたんだよ? そんな事は思わないよ」

「でもなぁ……」

「僕は今の生活、結構気に入ってるよ? 自由に研究できるし、何より我が家があるからね」


 森谷がスケルトンでなければ、今はどんな顔をしているのだろう。

 カタカタと骨を鳴らしながら笑っているように見えるが、その雰囲気からは寂しさも感じられる。

 どうにかして森谷を自由にする事はできないかと考えて、俺は鑑定してしまえばいいのだと今さらながら気がついた。


「鑑定、してみる?」

「止めてね? たぶん、魔力枯渇を起こして倒れるよ?」


 しかし、森谷からは即答で否定されてしまった。

 ……後でこっそり、やってみようかな。

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