第144話:予定外のサバイバル生活 14
森谷が言うには、魔導具を作るのに最も重要となるのが、どのような効果を持たせたいか、それを具体的にする事らしい。
単純に『火を起こしたい』という内容だと、どういう状況で、どれだけの火力が必要で、発動条件は何なのか、といった細かな設定が必要になってくる。
これらの設定を怠ると、必要な時に発動しなかったり、火力が強すぎて制御できなかったり、予期せぬ時に発動したりと不都合が絶えない魔導具になってしまう。
俺としても不具合ばかりの魔導具など作りたくはないので、森谷の口にした必要条件は明確にしておきたい。
今回のメールバードに関しても、詳しく話を聞いてみると結構な条件が付けられた魔導具だった。
特に驚いたのが、送り先の相手を明確にするために使用者の思考を的確に読み取る、という発動条件である。
メールバードではこの部分が一番重要とされており、誤送を防ぐためのものでもあった。
「確かに、この部分が曖昧になってたら大事な知らせとかは扱えないよな」
当時は森谷のメールバードが魔の森からの連絡手段として重宝されたようだ。
だからこそ、誤送を防ぐ手段についてもそうだが、撃ち落とされたり奪われたりしないよう防御を固める事にも重きを置いたのだとか。
「まあ、今回は練習だしその辺りは省いてもらったけどな」
そう、俺が作るメールバードはあくまでも練習である。
誤送を防ぐ部分にだけ重きを置き、防御に関しては全く触れない事になった。
そうでもしなければ、魔導具として機能させるための魔導陣を描き切る自信がなかったのだ。
「裏技を使えば何とかなると思うけど、まずは自分の力で作ってみたいよな」
転移魔法陣の改良を行うにあたり、修正箇所がディスプレイ画面に表示された。
おそらく、魔導陣に関しても鑑定内容に合わせてどのように描けばいいのかを教えてくれると思う。
しかし、まずは俺が描けるかどうかが重要なのだ。
簡単にしてもらった魔導陣すら描けなければ、ディスプレイ画面を見ながらとはいえ難解な魔導陣を描き切るなどできるはずもない。
森谷に教えてもらった魔導陣を一から描いていく。集中していたからか、どれだけの時間が経過しているのかも俺には分からなかった。
しばらくして書き終えてみると、いつの間にか森谷が向かい側から俺の作業を見つめていた。
「どわあっ!?」
「ん? どうしたのー?」
「ど、どうしたのって……えっと、いつからいたんだ?」
「結構前からだよー」
「……そうですか」
ヤバい、全然気づかなかったぞ。
「あれ? でも、円はどうしたんだ?」
「円ちゃんなら、新君とハクと一緒に訓練してるよー。無理は禁物だけど、彼女なら魔力も豊富だし、大丈夫じゃないかなー」
性格的には少し心配な部分もあるものの、新が一緒なら大丈夫だろう。うまくストッパーになってくれるはずだ。
「それにしても、すごい集中力だったねー」
「……茶化しているのか?」
「違うよー。素直に褒めてるんだよー」
全く気づかなかった俺からすると、茶化しているようにしか聞こえないのだが。
そんな事を考えていると、森谷は俺が魔導陣を描き終わった紙を手にして光に透かした。
青色のインクの特徴なのだろう、描き始めてから数分の間は色が残っているのだが、しばらくすると色だけが失われて何も描かれていないように見えてしまう。
アリーシャに飛ばしたメールバードにも魔導陣が描かれていたのだが、その事に俺たちは全く気づかなかった。
「とっても上手く描けているよー。これなら合格点だねー」
「そ、そうか? それならよかった」
「まあ、最初に言ったけど、これはだいぶ簡単にした魔導陣だから、防御面ではこの紙切れの耐久性しか持ってない。だから、ここでは使えないからねー」
そんな事は分かっている。
使うとしたらちゃんと動いてくれるかお試しで円や新に飛ばすか、魔の森を出てから使う事になるだろう。
窓から外に視線を向けると、午前中に始めた作業だったが、いつの間にか太陽の光が西側の窓から差し込んできていた。
――ぐううううぅぅ。
……まさか、昼ご飯を抜いてしまうとは。
「言っておくけど、円ちゃんと新君は食べ終わってるからね?」
「なんで声を掛けてくれないんだよ!」
「だってー、円ちゃんが集中しているからそっとしておいてって言うんだもん」
……くっ! 森谷に文句を言おうと思ったら、円の提案だったとは。
「円ちゃんの言葉なら許せちゃうんだー!」
「黙れ」
「まあまあ、怒らないのー。ちゃんと桃李君の分も用意しているからさー」
カタカタと笑いながら立ち上がった森谷は、台所から温め直された料理を運んできてくれた。
「……ありがとう」
「どういたしましてー。今度は防御にも効果がある魔導陣を教えてみようかな。でも、これには作成者の魔力が使われるから、使った魔力量によって強度も変わるから気をつけてね?」
「分かった」
「本当に? 下手をしたら魔力枯渇になってぶっ倒れるからね?」
「はいはい。……もう、食べてもいいか?」
さすがに腹が、限界だ!
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