第140話:予定外のサバイバル生活 11
さて、残ると決まったからにはまずやるべき事がある。
「アリーシャたちにメールバードを飛ばそう」
遅くなればなるほどあちらを心配させる事になるし、下手をすると捜索隊を結成して魔の森に入ってくる可能性もある。
そうなると二次災害になりかねないのだ。……まあ、こちらに被害は出ていないけど。
「この紙に内容を書いて、折り鶴にしてくれたら飛ばせるよ」
「……これ、折り鶴じゃないとダメなのか?」
「ダメだよ! 折り紙と言えば折り鶴だろう!」
「……そ、そうか?」
「そうだよ! 僕は折り鶴以外は認めないからね!」
今の言い方だと、他の形でも飛んでくれそうな気がしないでもないが……飛ばす時にでも試してみようかなぁ。
「内容は……こっちは無事、安全も確保してるから安心してくれ、これくらいでいいか?」
「だいぶ簡潔だね、桃李君」
「真広、もう少し詳しく説明してやったらどうだ?」
「ダメか?」
「「ダメ」」
「……内容は二人に任せた!」
俺が考えても却下される未来が見えてしまったので、ここは副生徒会長と剣道部主将に任せる事にした。
帰宅部だった俺よりかは、何かと書類とかに関わる事も多かっただろう、うん。
「桃李君って、面倒くさがりなんだねー」
「色々と文句を言われたらやる気もなくなるってもんだろ?」
「それ、自分への言い訳として使ってるだけだよねー?」
「……」
「そこで黙るって事は、正解だって事だよ?」
……だって、面倒くさいんだもの。
「まあ、適材適所だと思えばなんて事もないさ!」
「開き直ったねー」
それで面倒の一つが片付くなら、俺は何度でも開き直ってやろうではないか!
「こんなものかな」
「あぁ、問題ないと思う」
森谷とどうでもいい話をしていると、二人がメールバードの内容を書き終えたようだ。
「それじゃあ飛ばしてくれ」
「内容を確認しなくてもいいの、桃李君?」
「二人が書いた内容なら問題はないだろう!」
「単に確認するのが面倒なだけじゃないのか?」
……す、鋭いなぁ。
とはいえ、二人の事を信頼している事は事実なわけで、俺としては本当に問題はないのだ。
「それじゃあ、この紙を紙飛行機にして――」
「折り鶴ね! それ以外では飛ばないからね!」
「……本当に飛ばないのか?」
「本当に飛ばないの! そういう風に作ってあるんだからね! 紙の無駄使いはしないでよね!」
……ちっ。
「あっ! 今絶対に嫌な気持ちになっていただろう!」
「ん? そんな事はないよ。円、折り鶴にお願いできる?」
「あ、うん、分かった」
「桃李君! 聞いてるんだろうねえ!」
カタカタさせながら詰め寄ってくるので、俺は聞こえないふりをしてドアの方へ歩いていく。
そのまま外に出ると、改めて家の周囲に視線を向けた。
こっちにやってきた時には警戒ばかりしていて気づかなかったが、畑があったり、果樹があったり、先ほど飲んでいたコーヒーの豆だろうか、それも家の裏手に広がっていた。
「……すごいなぁ」
「でしょ? 今ではこの光景が僕の日常になっているけど、最初の頃は本当に大変だったんだよー」
「……なあ、森谷。禁忌魔法を使ったって言ってたけど、禁忌って言うくらいだから、何か代償とかあったのか?」
先ほどの話では禁忌魔法という単語に驚いてしまいちゃんと聞けなかったが、森谷の姿を見れば何かしら代償があった事は確実だ。
畑や果樹、それにコーヒー豆が栽培されているところを見ると、禁忌魔法を使ってすぐにスケルトンになったわけではないと思うのだが……。
「実を言うとねー、禁忌魔法を使ったのは二回なんだ」
「……そうなのか?」
「うん。最初の一回目は魔獣の群れを一掃する時に使った。僕を中心に腐敗の霧を発生させて、囲んでいた魔獣を倒したんだ」
「……もしかして、その霧は森谷自身にも?」
「お、鋭いねぇ。その通りで、僕の肉体もどんどんと腐敗していったんだ」
話を聞けば、発動者の腐敗は他の生物よりも遅いようで、本当に徐々に肉体が朽ちていくのだとか。
即死じゃなかったのは、肉体が朽ちていく苦痛をじわじわと味わわせるのが目的らしい。
なんとも嫌らしい代償ではあるが、一つ目の禁忌魔法でまずは窮地を脱したのだとか。
「なら、二つ目の禁忌魔法はどうして使ったんだ? また魔獣が襲ってきたのか?」
俺の質問に森谷は首を横に振る。
そして、少しの間を開けてからその理由を口にした。
「それはね――禁忌魔法に対する興味からだよ!」
……なるほど、こいつは単純に研究バカだったらしい。
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