第132話:予定外のサバイバル生活 4

 ギリギリのタイミングで全員が準備を整える事ができた。

 しかし、余裕があるかと言われるとそうではない。

 現れたレッサーアースドラゴンは数は五匹だが、一匹当たりの強さは先に倒したパラライズバードやシルバーウルフの比ではない。五匹……いや、十匹が群れになってようやく一匹の強さに値するのだ。


「どっせええええええええぇぇいっ!」

「ぬおおおおおおおおぉぉっ!」

「はあっ! ふっ!」


 そんな中でもユリア、ライアンさん、ヴィルさんは一対一の戦いを繰り広げている。

 このままいけば三人に関しては単独で討伐してくれるだろうけど、問題は残り二匹のレッサーアースドラゴンだった。


「くっ!」

「こいつらっ!」

「硬いわねえっ!」


 新とリコットさんが円の援護を受けて戦っており、俺はミレイさんの手助けをしながらアリーシャとレレイナさんの援護を受けている。

 一進一退の攻防が続いているのだが、体力的にはレッサーアースドラゴンの方が高いだろうし、どこかで拮抗を崩さなければならない。


「アリーシャ! レレイナさん! どっちかはユリアたちの援護に回って!」

「ですが、そうするとこちらの拮抗が!」

「何とか保たせる! 誰かがこっちに来てくれる方が大事だから!」

「私が行きます、アリーシャ様!」


 俺の言葉を受けてレレイナが駆け出していく。

 こうして戦っている間にユリアたちとは距離ができてしまっているが、レレイナさんの援護を受ければすぐに倒してくれるはずだ。


「ミレイさん! 時間を稼ぎます、少し下がってください!」

「黙りな! あたいに任せておけばいいんだよ!」

「すぐに援軍が来ますから!」

「うるさいねえ! 切り刻んでやるよ!」


 あぁ、もう! せめてこっちにいるのが新かリコットさんだったらよかったのに!

 俺はアリーシャに目配せしてミレイさんがやられないよう立ち回る事にする。

 本当なら鑑定を掛けたいのだが、そんな時間が全くない。それほどにレッサーアースドラゴンの攻撃は苛烈だった。

 鋭い爪を振れば木々がなぎ倒されるだけではなく、土が捲れて吹き飛んでいく。

 咆哮をあげれば振動で小さな枝葉が粉砕され、三半規管が狂わされそうになる。

 そんな中、ミレイさんはぶどうによって倍になった速さを活かして一瞬のうちに懐へ侵入、双剣による高速斬撃を浴びせると素早く離脱を繰り返す。

 ヒットアンドアウェイの戦法を駆使しているのだが、あまりにも鱗が硬すぎてダメージはなっていない。

 それはアリーシャの火魔法も同様だった。

 竜種というのは総じて火に耐性を持っているようで、足止めであれば使えなくもないが、討伐となれば威力が足りなくなる。

 レレイナさんもそれを見越して自らがユリアたちの援護に向かったのだが、ミレイさんのせいで色々と無駄になってしまった。


『グルオオオオオオオオッ!』

「ヤバい! ミレイさん下がって! ブレスが来る!」

「ちいっ!」

「ファイアウォール!」


 レッサーアースドラゴンの口内で深紅の炎が揺れる。

 俺の声にミレイさんが舌打ちをしながら大きく飛び退き、レッサーアースドラゴンとの間にアリーシャが作り出したファイアウォールが顕現する。

 これで多少はブレスの勢いを殺せるだろう――そう思っていた。


 ――ゴウッ!


「ミレイさん!」


 レッサーアースドラゴンのブレスは勢いを衰えさせることなくファイアウォールをぶち抜き、一直線にミレイさんへと向かって吐き出された。

 このままでは怪我では済まない、ミレイさんが確実に消し炭になってしまう。


「――きゃあっ!」


 そう思った瞬間、ミレイさんが悲鳴をあげて真横に吹き飛んだ。


「リコットさん!」

「こんにゃろおおおおぉぉっ!」


 新と組んでいたリコットさんがミレイさんを真横から蹴り飛ばすと、ブレスの射線上から外れていく。

 直後にリコットさんも飛び退くと、間一髪でブレスを回避する事に成功した。


「マヒロ! ミツルギをお願い!」

「あ、あぁ! 分かった!」


 言う事を聞いてくれないミレイさんと俺が組むのはマズいと判断したのか、リコットさんは新の方へ向かうよう指示してくれた。

 純粋な戦闘力では俺よりもリコットさんの方が倍以上強いし、新ならこちらの指示通りに動いてくれるはずだ。

 片手剣を持つ手に力を込めて駆け出した俺だったが――再び予想外の状況に追い込まれてしまう。


「――な、なんだ!?」

「御剣君!」


 傷を負いながらもなんとか耐えていた新だったが、突如として足元に謎の魔法陣が光を帯びて浮かび上がってきたのだ。

 そして、新を助けようと円も魔法陣の中に飛び込んでしまった。


「新! 円!」


 俺は全力で駆け出して二人を魔法陣の中から突き飛ばそうとした。


「間に合わな――」


 しかし、俺たちはそのまま光に包まれてしまった。

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