第130話:予定外のサバイバル生活 2
最初にとうじょうしてきたのはパラライズバードである。
全身に雷を纏っており、触れるだけで麻痺の状態異常を相手に付与させる面倒な魔獣だ。
対処法としては遠距離攻撃が主になるのだが、こちらの主力が近接戦闘に特化しているため面倒だと伝えている。
しかし、そこは魔導師組であるアリーシャ、円、レレイナさんが張り切ってくれた。
「ファイアストーム!」
「ライトアロー!」
「アースバレット!」
アリーシャのファイアストームが炎の渦を作り出して広範囲のパラライズバードを灰に変えていく。
素材がもったいないと思う反面、確実な勝利が必要な魔の森では致し方ない。
その代わりではないが、円とレレイナさんの魔法は姿形が残ってくれるので助かる。
円のライトアローは光の矢を無数に放ちパラライズバードを射抜いていく。
レレイナさんのアースバレットも同様で土の弾丸を上空へ飛ばしていく。
事切れてしまえばパラライズバードとはいえ雷を纏い続ける事はできなくなる。
今回、近接戦闘を得意としている面々の仕事といえば魔獣を一ヶ所に集める事だろう。後は俺がアリーシャから預かっている魔法袋に入れてしまえば仕事は終わりだ。
魔法の弾幕を抜けてくる個体もおらず、魔導師組の成長が著しいのはありがたい事である。
「なんだか拍子抜けですね」
「これで終わりなの?」
「……アースバレットって、土属性でも下級の魔法なんですが」
使う魔法については俺が事前に指示を出していた。
火魔法スキルしか持っていないアリーシャに関しては素材が焼けてしまう事は仕方なく、故に魔獣を殲滅させる事を優先させた。
だからこそ二人のライトアローとアースバレットなのである。
バナナを二本しか食べられない三人だが、それでも魔力は現時点の魔の森の魔獣を一撃で仕留める事ができる。レレイナが口にしたように下級魔法でだ。
光魔法や土魔法も威力の高い魔法では素材をダメにしてしまう事があるが、下級魔法であればそんな事はない。
すでにグランザウォールには魔の森の魔獣素材が流通しているが、他の都市ではそうもいかない。
特に今は王都へ優先的に素材を回しているので、あって困る事はないのだ。
「それだけレベルが上がって、魔力の増加量が増えたって事ですね」
俺がそう口にすると、レレイナさんは恥ずかしそうに笑った。
パラライズバードの掃討が終了して次の魔獣が現れるまで少しばかりの時間がある。
魔導師組には休んでもらい、雑用は俺たちが率先して行う。
次の魔獣が近接戦闘を得意としているシルバーウルフなので切りの良いところで休んでもらうけど。
さて、しばらくしてシルバーウルフの群れが姿を現す時間が近づいてきた。
魔導師組も立ち上がり杖を構えているのだが、今回は魔法による援護を極力控えてもらうように言っている。
というのも、シルバーウルフを新の踏み台にしてしまおうと考えているからだ。
「ユリアと並んで戦ってもらうからな」
「……あぁ」
「なんだ、緊張しているのか?」
「そりゃそうだろう。こっちに来てから今日まである程度は魔獣と戦ってきたが、大勢の兵士がいる中での戦いだったからな。だが、今回は一〇名だけだろう?」
「新の実力なら問題ないさ。果物も食べたんだろう?」
「……りんご、マスカット、ぶどうを食べた」
「なら問題ないさ」
筋力、耐久力、速さが倍になっている新ならシルバーウルフを討伐するのもわけないだろう。というか、オーバーキルになるかもしれない。
心配なところを言えばミレイさんの方なんだが、それを口にするとまたドスの利いた声で怒られるんだろうなぁ。……まあ、気にはしておこうかな、うん。
「……真広、来たぞ」
「あぁ。新はユリアの隣に移動してくれ」
「分かった」
倍になった速さで一瞬のうちに移動した新を見送り、俺も片手剣の柄をギュッと握る。
新にはあぁ言ったけど、俺もレベル12になってから初めて本格的な魔の森の開拓だ。
大きく深呼吸をしながらディスプレイ画面に視線を落とす。
シルバーウルフがこちらに気づくカウントダウンがどんどんと減っていく。
10……9……8…………3……2……1……!
「来るぞ!」
俺がそう叫ぶのと同時に、茂みの奥からシルバーウルフの群れが飛び出してきた。
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