第127話:エピローグ
――アデルリード国に帰って来た。
直後、円が俺に抱きついてきたのだがどうしたらいいのかさっぱり分からない。
「……よかった……よかったよぅ……」
「……お、おぅ」
両手をあげて固まってしまった俺を見て、ユリアと新がニヤニヤと笑っている。
……いや、笑ってないで助けて欲しいんだがなぁ。
「ただいま、円!」
「ユリアちゃんもおかえり……え……み、御剣君!?」
「あぁ……その、迷惑を掛けたな」
何やら申し訳なさそうにそう口にした新だが、何かあったのか?
「……ううん、大丈夫。私もあの時は混乱していたからさ」
「……そうか。助かる」
「どうしたんだ?」
「むふふ~! 桃李がいなくなった時なんだけどさぁ~、円がものすご~く――」
「ちょっと、ユリアちゃん!」
「ん? 俺がどうしたんだ?」
「な、なんでもないから! 本当に気にしないでね!」
……いや、名前が出ただけに気になってしまうんだが。
「……新?」
「御剣君も言わないでね! 絶対だよ!」
「あぁ、分かっている」
「なんでだよー。教えてくれよー」
「後で私が教えてあげるわよー!」
「絶対だねだからね、ユリアちゃん!」
……あぁ、なんか久しぶりだなぁ。
新と学校で話をした事はほとんどなかったけど、円やユリアを交えての会話も楽しいものだ。
ここに他のクラスメイトがいても、楽しいのだろうか。……いや、ないな。
生徒会長とかいたら絶対に文句を言われそうだし、赤城にいたっては論外だ。
先生ならまあ……楽しそうだな。
「……どうしたの、桃李君?」
「ん? いや、なんでもない。というかさぁ……そろそろ放してくれない?」
この会話の間、円はずっと抱きついたままだ。
俺が放してくれと口にすると、円は顔を真っ赤にして放してくれた。
「ご、ごごごご、ごめんなさい!」
「いや、いいんだけど」
強がりを口にしてみたものの、俺の体はいまだに固まっている。
……そっちの二人、笑わない!
「トウリさん!」
「トウリ!」
そこへ声が掛けられたので振り返ると、アリーシャとグウェインが立っていた。
「ただいま、二人共」
「……もう! 遅いですよ!」
「ユリアさんもおかえりなさい」
「えぇ、ただいまー」
アリーシャが頬を膨らませて怒った顔をし、グウェインは円に労いの言葉を掛けている。
「……真広、こちらの方は?」
「あぁ。異世界人を祖先に持つこっちの領主様だ。二人共、こいつは御剣新。剣聖の特級職だ」
「そうなのですね、剣聖の特級職…………ええええぇぇっ!?」
「と、特級職!?」
「……俺はお前が領主様と仲良くしている事に驚いたのだが?」
「「絶対に特級職に驚きますよ!!」」
「……そ、そうなのか、すまない」
二人して新に言い返し、新もすぐに謝罪している。……いや、なんなのよ、この関係。
「これは陛下への報告案件ですね」
「へ、陛下だと!?」
「まあまあ、陛下もいい人だよ?」
「お前は陛下ともあった事があるのか!?」
「っていうか、ディートリヒ様は宰相だし、こちらは騎士団長と副団長だよ?」
「いや、それは知っていたが……なんだか、常識の感覚がマヒしている気がするぞ」
こめかみを指で揉みながら険しい顔を吸ている新だけど、俺としては陛下との関係も良好なので別に問題はない。
「では、私たちはすぐに王都へ戻って陛下へ報告してきます」
「剣聖の少年よ! いずれ俺と模擬戦をするぞ! いいな!」
「はいはい。ヴィグル様はそればかりですねぇ。では失礼します、皆様」
ディートリヒ様が丁寧な口調で、騎士団長は脳筋な発言で、それをフォローしながら副団長が断りを入れて去っていった。
「……これからどうなるかしらね」
「……先生たち、大丈夫かなぁ」
「……きっと、悪いようにはならないさ」
「そうそう。というわけで、俺たちは魔の森の開拓を再開させようぜー」
俺はそう口にして歩き出したのだが、誰もついて来ていない事に気づいて振り返る。
「……どうしたんだ?」
「桃李、軽くない?」
「さすがに酷いと思うよ、桃李君?」
「真広は、どこに行っても真広なんだなぁ」
……それ、絶対に褒めてないよね? 貶してるよね?
「考えたって俺たちにできる事は限られるの。だったら、できる事をやりながら事の成り行きを見守る方が建設的じゃないか?」
「いや、口にするのは簡単だけどねぇ」
「なかなか割り切れないよ?」
「……まあ、俺は助けられた身だからな。従うよ」
「おっ! いいねぇ、新。それじゃあいったん戻ろうぜ――グランザウォールに!」
新にグランザウォールを案内しないといけないし、生活する拠点も与えないといけない。
そこはアリーシャと相談するにしても、ここでやるべき事は多いので時間は無駄にしたくない。
俺の当面の目標である魔の森の開拓。そして、その先にいったい何があるのか……楽しみだなぁ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます