第82話:自由とは程遠い異世界生活 21

 途中の街で一泊し、出発から二日目には王都アングリッサに到着した。

 要塞都市であるグランザウォールに勝るとも劣らない外壁の高さには驚かされたが、よくよく考えると王都と同じくらいの外壁を誇る要塞都市の方が異常なのかもしれない。

 まあ、それだけ魔の森にいる魔獣が脅威であると捉えているのだろう。

 それならもっと重要な施設として人員を割けばいいのにと思わなくもないが、今まで上手くいっていた分、手を加え難かったのかもしれない。


「街の中も明るいし、賑やかですねー!」

「本当にね! グランザウォールも大きいと思っていたけど、さすがは王都よね!」

「うふふ。喜んでもらえて良かったです。……本番はこれからですが」

「うっ! ……そうなんですよねぇ」

「腹をくくりなさいよ、桃李」


 ……こいつ。自分が護衛って立ち位置だからって高みの見物を決め込んでやがる。


「そうそう、謁見にはユリアさんも同行してもらいますからね?」

「……はい!? ちょっと、聞いてませんよアリーシャさん!」

「はい。今言いましたから」

「先に行っておいてよね!?」


 ってか、普通に考えたらそうだろうよ。

 ただでさえ数が少ない特級職である。顔を見る機会があれば見逃すような事はしないだろう。


「諦めろ、ユリア」

「……知ってたのね、桃李?」

「知らないよ。ただ、予想はできてたかな」

「言ってよね!」


 だって、あくまで予想だもの。

 とはいえ、これで俺の気疲れは少しだけ和らいでくれるな。


「このまま登城しましょう」

「い、いきなりですか?」

「心の準備とか、させてくれないの? 私、今さっき知ったばかりなのよ?」

「時間がありません。私たちはさっさと戻って魔の森の開拓を進めなければなりませんからね!」


 少しだけ自棄になっているように見えるアリーシャの言葉に、俺もユリアも従う事しかできなかった。


 堅牢の盾の面々とは城門の前で別れた。彼らは中に入る事ができないので先に宿屋を確保してもらい、夕方ごろに迎えに来てもらう事になっている。

 緊張した面持ちで大広間を進んでいく俺とユリアとは異なり、アリーシャは澄ました表情で歩いている。


「……緊張してないのか、アリーシャ?」

「……」

「……アリーシャさん?」

「……そ、そんなわげ、ないじゃないでふか!!」

「「……あ、そうですよねー」」


 そりゃそうか。

 俺たちとアリーシャでは立場が明らかに違う。片や異世界から来た特級職であり、片やアデルリード国の国民であり領主である。もしも何かしら不敬があれば首が飛びかねないのだから緊張してしかるべきだろう。


「……俺たちも粗相がないように気を付けような」

「……はぁ。なんで私が選ばれたのよ」


 今さらだな。馬車の中では外を見に行けるとか、円には申し訳ないとか言ってたくせに。


「アリーシャ様、異世界人のお二方。こちらでお待ちください」


 俺たちは大きな扉の前で待たされることになったが、これはいわゆる王の間という奴だろうか。扉の先には広大な空間が存在していて、少し高くなった場所に陛下が腰を下ろしているとか、そんな感じだろう。


「お待たせいたしました」


 ここまで案内してくれた偉い人っぽい方が戻ってくると、俺たちに一礼をする。

 すると、すぐに扉がギギギと音を立てながら内側に開かれていく。

 予想していた通りに王の間が広がっており、陛下が豪奢な椅子に腰掛けていた。


「行きましょうか」


 アリーシャが歩き出したのを見て俺たちも足を進める。

 真っ赤な絨毯を歩いている俺たちだが、左右には等間隔に剣や槍を手にした騎士が立っていた。

 厳かな雰囲気に緊張がピークに達していくと、段々になっている場所から2メートルほど離れた場所でアリーシャは立ち止まり、片膝を付いて首を垂れたので俺たちもそれに習う。


「アリーシャ・ヤマト様。トウリ・マヒロ様。ユリア・コンドウ様。参上いたしました」

「うむ」


 首を垂れているから分からないが、陛下の隣に立っていた人が声を発しているのだろう。

 そして、一際低い声で返事をしたのがおそらく陛下だ。


「面を上げよ」

「はっ!」

「「はっ!」」


 アリーシャの返事に遅れて俺とユリアが口を開く。

 ゆっくりと立ち上がったアリーシャの雰囲気を察して俺たちも立ち上がり、真正面から陛下を見た。

 ……なんだろう、見ているだけで不思議なプレッシャーを感じる。これが国を治める者の雰囲気なのだろう。


「弟を急ぎの使いにしてしまい申し訳なかったな、アリーシャよ」

「とんでもございません、陛下。私の方こそ、一度に報告ができず何度もお手を煩わせてしまい申し訳ございません」

「我々と異世界人では常識も考え方も異なるからな。その中で彼らと良好な関係を築けているお主が謝る必要はあるまい」

「ありがとうございます、陛下」

「うむ。……して、そなたらが異世界人であるな?」


 アリーシャとのやり取りが終わり、陛下の視線がこちらを向いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る