第83話:自由とは程遠い異世界生活 22
目が合うだけで背筋が伸びる。それほどの迫力を陛下は持っているのだ。
「……俺……いえ、私が真広桃李と申します。この世界では、トウリ・マヒロとなります」
「わ、私は、近藤ユリアです! ユリア・コンドウと、なりましゅ!」
……なりましゅってなんだよ、ましゅって。
「よいよい、緊張するのも無理はないからの。それにしても……ふむ、二人共若いな」
「それは……私たちが、元の世界では学生でしたから」
「学校に通っている年頃か。であれば、仕方がないな。報告ではもう二人ほど異世界人はいたはずだな?」
「はい。一人は私たちと同い年の女性で、もう一人は先生で大人の女性です」
緊張しっぱなしのユリアに答えさせるわけにはいかないと、俺はできるだけ丁寧な口調で返答していく。
そのおかげかは知らないが、幸か不幸か陛下の質問はユリアではなく、アリーシャでもなく、俺に集中する。
「今回、謁見の場を設けた理由は聞いておるな?」
「はい。仮定の話にすぎませんが、スキルの習得方法が分かるかもしれない。その事から陛下に伺いを立てました」
「何故、我に伺いを立てる?」
「……グランザウォールでは現在、魔の森の開拓が進んでおります」
「聞いておるぞ。トウリ・マヒロ、そなたの力がとても役に立っていると」
「ありがとうございます。そして、グランザウォールは力を付けております」
「そのようだな」
……陛下は何を望んでいるのか。俺の受け答えの上げ足を取ろうとしているのか? それとも単純に俺を値踏みしているのか?
どちらにしても俺は答えを間違えられない……気がする。
「……これ以上、陛下の与り知らないところで力を蓄える事は無用な疑いを掛けられる可能性があると判断いたしました」
「無用な疑いか。……謀反、とかかな?」
「はい」
即答した俺に対して、陛下はしばらく見つめていたものの、ゆっくりと口角を上げていきニヤリと笑った。
「ふははははっ! なかなかに聡い子供だな!」
「……あ、あの、陛下?」
「いやなに、アリーシャの弟から話は聞いていたのだが、実際に対面すると予想以上のものじゃったわい」
うーん……これは良い方向への予想以上だと思っていいのだろうか。まあ、笑ってくれているのだから悪い方向ではないだろう。
「マヒロの言う通りじゃな」
「え?」
「何も報告なしにグランザウォールが力を付ければ、我も疑いの目を向ける事だろう」
やっぱり、報告しておいてよかった。
「だが、力を付けたとしても敵対するような事はなかったがな」
「かもしれません。ですが、私は助けてくれたアリーシャに危険が及ぶ可能性をできる限り潰しておきたかったのです。……この世界の常識を知らない俺を助けてくれましたから」
「トウリさん……」
隣で聞いていたアリーシャが呟く。
陛下が相手だから言っているわけではない。これは俺の本心だ。
グランザウォールに入れなければ結局は魔の森に戻るしかなかった。鑑定スキルを使えばしばらく生き残る事はできただろうけど、いつかは死んでしまっただろう。その前に俺の心が諦めて死を受け入れようとしたかもしれないのだから。
「我らはアリーシャがグランザウォールの領主になっていてくれてよかったと思うべきかもしれないな」
「それは違います、陛下」
「アリーシャ?」
突然の声に俺は思わず声を掛けた。
だが、アリーシャは決意したような瞳で陛下を見据えて口を開く。
「前領主だった父上でも、母上だって、異世界人が来たなら助けていたでしょう。私だからではありません。ヤマト家は必ず、異世界人を助けると誓います」
……あぁ、そうか。アリーシャは両親や祖父母、先祖たちでも同じことをしたと伝えたかったのだ。
「……確かに、アリーシャの言う通りであるな」
その気持ちを汲んだのか、陛下は大きく頷き訂正した。
「そうそう、アリーシャにマヒロよ。お主らに伝えておくべき事がある」
話題を変えようとしたのか、陛下は唐突に口を開いた。
だが、その内容は俺がこの世界に召喚されてからずっと知りたかったものだった。
「鑑定士(神眼)に関係するかは分からんが、それに類する情報がある」
「えっ!」
思わず声をあげてしまったが、陛下は特に気にする事なく話を進めてくれた。
「じゃが、この情報をお主らに伝えるには一つ条件がある」
「条件、ですか?」
アリーシャは心配そうに呟いたが、俺は何となくその条件に当たりを付けている。
まあ、ここに呼び出された時点で決まっているようなものだと思うが。
「スキルの習得方法が分かれば、それを我らにも教えて欲しいのじゃ」
そりゃそうだろうね。まあ、できるかどうかは分からんけど!
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