第64話:自由とは程遠い異世界生活 4
グランザウォールに戻った俺たちはそのまま屋敷に向かう。
中に入ると物音に気づいたのだろう、円が二階から下りてくるとすぐに口を開いた。
「桃李君! あの、無理を承知でお願いがあるの。私、やっぱり――」
「あー、その前にお茶を準備しないか? 話も長くなるだろうし……ね、アリーシャ」
「そうですね。準備するのでリビングでお待ちください。マドカさんはユリアさんを呼んできていただけますか?」
「……はい、分かりました」
暗い表情になった円がユリアを呼びに二階へ上がっていく。
……あれは、落ち込んでるな。また断られると思っているんだろう。
とはいえ、立ち話でできる内容でもないし、今は仕方ないと思いながらリビングへと向かう。
アリーシャは台所へ向かい紅茶の準備だ。
「これで円が落ち着いてくれたらいいんだけどなぁ」
円とユリアには俺たちが持っている情報を全て教えることになる。
これで落ち着いてもらえなかったらお手上げになってしまう。
最悪、俺が全てに折れてついていくことになるだろう。
「お待たせ、桃李君」
「何か話があるって聞いたんだけど?」
「あぁ。……ちょうど紅茶も来たし、話をしようか」
アリーシャが全員の前に紅茶を置き、俺の隣に腰掛ける。向かい側に円とユリアだ。
「それで、円。さっきの話は、やっぱりみんなを助けに行きたいという事でいいのかな?」
「……うん。友達もいるし、やっぱり放っておけないよ。数少ない日本の人だし」
「私も同じ気持ちかな。でも、桃李たちが言っている事も理解できるわ」
「ユリアちゃん……うん、そうだよね」
どうやら円も少しは落ち着きを取り戻しているようだ。
声を荒げるだけじゃなくなったのはありがたい。
……うん、ユリアのおかげみたいだ。めっちゃこっちを見てくるし。
「ゴホン! ……それでな、円。俺なりにみんなを助ける事ができるかを考えてみたんだ。今から俺たちが持っている情報を全て伝える。そして、懸念事項もな」
「……ありがとう」
そこからは俺とアリーシャの説明が始まった。
途中で質問が入るかと思っていたが、別段そういう事も無く話は進んでいく。
俺からはアリーシャに話したのと同じで転移魔法陣の改良についてと懸念事項。
シュリーデン国に向かう事ができると聞いた時は嬉しそうな顔をしていたが、戻ってくる事が可能か分からないと聞くと困った顔に早変わりだ。
さらに、俺たちが転移した後に問題が起きるとシュリーデン国とアデルリード国の間で国際問題に発展する可能性もあると伝えると、さらに落ち込んでしまった。
円としても他人を巻き込むことはできないと考えているのかもしれない。
「――というわけで、懸念事項が山積みだって事だ」
「……そっか。たくさんの人を巻き込むことになるんだね」
「まあ、勝手に呼び出された身としては俺たちも自分勝手にしていいとも思うけど、助けられたのも事実だからな。俺としてもそれだけは避けたいって話だ」
シュリーデン国に迷惑を掛けるのはいいとしても、アデルリード国に迷惑は掛けられない。
それに関しては円もユリアも同意のようで、やるとしてもアデルリード国に迷惑が掛からない方法でなければならない。
しかし、そうなるとアリーシャの話が無駄になってしまうかもしれないな。
「では、次に私からの話なのですが……トウリさんの説明の中で転移魔法陣の改良と、それを行う人材がいないという話があったと思います」
「うん。だから難しいって話だったよね?」
「ですが、それに関しては解決策があります」
「そ、そうなんですか?」
そう、これが歩きながら話をしている中でアリーシャから教えてもらった情報だった。
「王都へ魔の森の現状を報告しに行った際、陛下から開拓の助けになればという事で魔法に詳しい人材を派遣していただけることになったんです」
「本当ですか!」
「はい。どのような方が来られるのかは分からないのですが、多少の手助けはできるかと」
「そっか! あ……でも、転移魔法陣を使って助けに行く事は、難しいんだよね」
一度喜びを露わにした円だったが、それが現実的に難しいと思い出してまた落ち込んでしまった。
円の性格は知っているけど、こうして見ていると何だか面白いな。
「……ちょっと、桃李? 変な事を考えてない?」
「ま、まさかー。あは、あははー」
な、何故に俺を見ているんだ、ユリアよ。
「まあ、これが俺たちの持っている情報だよ」
「今まで黙っていてごめんなさい、マドカさん、ユリアさん」
「いいえ……その、私も冷静じゃなかったから、仕方ないと思っています」
「でもさー。私にまで黙っている事はなかったんじゃないの?」
「いや、ユリアに伝えたら絶対に円まで話がいっちゃうだろう?」
「まあねー」
だから言わなかったんだよ。
「正直、今のところは手段が転移魔法陣の改良しかない。それも一発勝負になってきてしまう」
「そこに国際問題まで絡んで来たら、私たちの我儘で動く事はできないわね」
「……そうだね」
解決策にはなっていない。
後は、王都から派遣される人の知恵を借りるしかなさそうだから、待つしかないか。
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