第63話:自由とは程遠い異世界生活 3

 魔獣討伐を終えた俺はその足でグランザウォールへと戻っていく。

 正直、考えはまだまとまっていないがやる事がなくなったからだ。


「すみません、トウリ様」

「構いませんよ。突然押し掛けたのは俺ですし、仕事もあるでしょう?」


 あの後、魔獣が周囲にいない事は確認したのだが兵士たちが安心して作業に入れるようにとヴィルさんが現場に残ることになったのだ。

 俺がいても邪魔なだけだと思いこうして戻ってきたのだ。


「……あれ? アリーシャ?」

「やっと見つけましたよ、トウリさん!」


 見つけたって、何か約束でもしてたっけ?


「何かあったんですか?」

「違います。ちょっとお話がありまして」

「話ですか?」

「はい。……その、マドカさんの事で」


 言い合いになったあの日以来、円は与えられた部屋に引きこもっている。

 ユリアとは何かしら話をしているようだが、俺はどうやら避けられているみたいなのだ。

 たまたますれ違っている、というわけでもなさそうで、食事の時ですらわざわざ時間をずらしたり、部屋で食べたりしている。

 アリーシャやグウェインも顔を合わせているというのに、どうしてこうなったのだろう。

 ……まあ、原因は俺がすげなく断ったからだろうけど。

 立ち話もなんだし、俺たちはグランザウォールに戻りながら話をすることにした。


「あの時の話し合いからずっと、ご自身で異世界人の皆様を助けられないか考えているようなのです」

「そうでしょうね。円は正義感が強いから」

「ですが、それは自殺行為です。仮にシュリーデン国まで行けたとしても、その後はただ殺されるだけになってしまいます」

「勇者や剣聖、それに他の上級職や中級職の奴らが操られているからですよね?」


 仮に操られていなかったとして、仲間に引き込める奴がいれば勝算はあるかもしれない。

 しかし、円の言ったようにあのクソ王様に操られているんだとしたら、顔を合わせた時点で攻撃されるのがおちだ。


「それに、円やユリアが生きていると知ればシュリーデン国の目がアデルリード国に向いてしまいます」

「そこも問題です。最悪の場合、国際問題……いや、戦争にだって発展しかねない」


 国を二つ挟んでいるから大丈夫、なんて事にはならないだろうな。

 この世界には俺の知らない技術なんてたくさんあるだろうし、そもそも転移魔法が魔の森以外にも設置されていたらどうするんだって話になってくるし、魔法陣がないと転移できないのかどうかすら分からない。

 知らないところからいきなり敵が現れて攻撃されでもしたら一巻の終わりだ。


「……鑑定、転移魔法の使用条件」


 魔力はあるんだし、一応調べておくか。

 ……ふむふむ……ほうほう……うん、戦争反対だ。

 練度にもよるが、魔法陣なしでも転移魔法が使える人もいるみたい。

 シュリーデン国の人間が魔法陣を設置したのだから魔法陣なしで使える人がいない可能性の方が高いけど、絶対ではない。

 国を巻き込む可能性があるならば、賭けに出るのは下策だろう。


「こうなったら、全てを円に説明して諦めてもらうしかないですね」

「全てをですか? ……トウリさん、もしかしてまだ何か隠しているのですか?」

「……あー、はい」

「ちょっと!」

「ご、ごめんなさい! 先にアリーシャには伝えておくからさ!」


 ここまで話して黙っておく事はできないし、俺は転移魔法陣の改良について、さらに懸念事項についても包み隠さず説明した。

 反応は予想通りで、アリーシャも俺と同じ意見だった。


「……確かに、危険過ぎますね」

「あぁ。それに、今行った以外にも小さな懸念だってあるんだ」

「というのは?」

「転移魔法陣を改良するにも時間が掛かる。大量の魔力が必要になるし、何より転移魔法に精通した魔導師が必要だ。そして、改良をした後に転移魔法を使うにも同様に大量の魔力が必要になる」

「それは理解しています」

「改良後すぐに転移して行動に移せれば問題はないんだけど、魔力の回復を待ってから転移するとなれば、あちらに転移魔法陣を改良した事がバレるかもしれない」


 これは改良後、転移魔法を発動させる間の話になるのだが、その間にシュリーデン国側が転移魔法を使おうとして発動しなかった場合、アデルリード国側の転移魔法陣に何かしら細工をされた事がバレてしまう。

 そうなると最初に疑われるのが、円とユリアの存在だろう。

 転移された当時のレベルが低かったとはいえ、二人は特級職だ。

 どうにかこうにか生き残り、アデルリード国で助けられたとクソ王様が考えたなら、何かしら探りを入れられることになるだろう。

 そうなれば国際問題に発展する可能性も出てくるし、最悪の場合は二人を殺すために暗殺者なんかが送り込まれてくる可能性だってある。

 ここは異世界なのだ。暗殺を生業にしている人がいてもおかしくはないだろう。


「問題は山積みなのですね」

「そういう事です。まあ、転移魔法陣を改良できる人材がいない時点で無理なんですけどね」


 肩を竦めながらそう口にしたのだが、何故かアリーシャは笑みを浮かべていた。


「……その点については、解決できるかもしれませんよ?」

「……え?」


 そこからはアリーシャの話になったのだが、とても興味深い話だったので円を説得するにはもってこいかもしれないな。


◆◆◆◆

 再会して数日ではございますが、本日以降の更新は二日に一回となります。

 これは、カクヨムコン6の読者選考期間が本日までとなり、以降は余裕を持った更新を行うためです。

 他作品の更新もあるのと、『鑑定士』をより良い作品に仕上げるためでもあります。

 お楽しみいただいている読者様には申し訳ないと思いますが、もしよろしければこれからもお付き合いいただければと思います。

◆◆◆◆

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