第59話:エピローグ

 ――そして数ヶ月が経ったある日、ついにその時がやって来た。

 すでに転移先だった場所は木々が伐採されており、田舎のバス停のような建物まで造られている。

 そこへシュリーデン国から転移させられただろう異世界人が現れたのだ。


「トウリさん! 転移の祠から狼煙が上がりました!」

「うおっ! マジで誰か転移させられたのかよ!」


 俺は朝ご飯を食べている途中だったのだが、アリーシャからの報告を受けて急いで転移先へと向かう。

 ちなみに、転移の祠と名付けたのはアリーシャだ。

 祠ではなくバス停をイメージして建てたのでどうにも俺は口にし辛いのだが、そこはまあそのうち慣れるだろうと思っている。

 向かうのは俺と秋ヶ瀬先生、それにアリーシャとリコットさんだ。

 今ではアリーシャもリコットさんもレベルが30まで上がっており、付き添いは必要ないとライアンさんからお墨付きを貰っている。


「真広君。転移させられるなら誰だと思う?」

「分かりませんね。俺たちが召喚されてから結構な日にちが経ってますから、さすがに特級職の奴らが来ることはないでしょうけど」


 円に会いたかったと思ってはいるが、それが叶わない願いだということは理解している。

 しかし、そうなると誰が転移してくるにしても知り合いはほとんどいない。ユリアも新も特級職だったしなぁ。

 そんなことを考えながら転移の祠へとやって来た俺は、転移者の姿を見て立ち尽くしてしまった。


「……嘘、どうして?」

「……いやいや、それは俺のセリフなんだけど」


 そう、俺のセリフを勝手に取らないでくれよ。

 お前は昔からそうだった。俺が読んでいるラノベを勝手に取って先に読んだり、言おうとしていたことを先回りして言ってしまったり、こうして今もあり得ないと思っていたことをやってのけてしまった。


「いったい何をやらかしたら、特級職が転移させられるんだよ――円!」

「本当に生きているんだね――桃李君!」


 駆け出した円は俺の胸の中に飛び込んで――ぐふっ!?


「げほっ! ごほっ! ……お前、レベル高いだろう!」

「えっと、今はレベル8だね」

「レベル8でこの威力かよ!? ……はぁ、特級職、恐るべしだな」

「ちょっとー! 私もいるんですけどー!」


 円に続いてゆっくりと近づいてきたのはこちらも特級職のユリアだ。


「……まさか、特級職の二人が追放させられるとはなぁ」

「追放って、まさか桃李も?」

「まあ、ここにいるからな。それと、俺だけじゃないぞ」

「無事だったのね。八千代さん、近藤さん!」

「「は、春香先生!!」」


 今度は二人が秋ヶ瀬先生へと飛び込んでいく。

 ……うん、上級職ではあるがレベル20ともなれば受け止めることも可能なんだね。


「春香先生、私、私のせいで!」

「生きていて良かったよ、先生!」

「うふふ、私も死ぬかと思ったけど、真広君が助けてくれたのよ。二人が今こうしていられるのも、全部真広君のおかげなんだからね」


 三人の姿を俺が眺めていると、その横にアリーシャとリコットさんがやって来た。


「あちらの方が、トウリさんがずっと気になさっていた方なのですね」

「ん? あー、まあ、そうなるのかな」

「ねえねえ、マヒロ。アリーシャ様に乗り換える気はないの?」

「ちょっと、リコットちゃん!?」

「……すまん、何を言っているのか分からないんだが」


 頭を抱えてしまった俺だったが、円たちから声を掛けられたので二人を連れて向かい紹介を済ませると、そのままグランザウォールへと戻っていった。

 積もる話もあるだろうし、色々と説明しなければならないことも多くある。

 だけど、今だけは再会を喜んでもいいかもしれない。何せ死んだと思っていた人との再会なのだから。


 そして、俺にとっても特級職の二人が転移させられたのは非常にありがたいことだった。


(よし、これでグランザウォールは任せられるし、魔の森の開拓もとりあえずは一段落だろう。俺は冒険者になって自由に動き回れるぞ!)


 俺はこの世界で自由気ままな異世界生活を送ると決めているのだから!

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