第53話:本当によくある勇者召喚 48
屋敷での話し合いは以上となり、今度はグウェインを残して四人で兵舎へと向かうことになった。
ライアンさんも先生のことが気になっているようで、色々と話を聞きたいのだとリコットさんが言っていた。
しかし、そこには冒険者ギルドのギルドマスターもいるらしく、その場で先生を引き込もうと考えているらしい。
「安心してちょうだい。私は真広君がアリーシャさん側にいる限りは敵になりませんから」
「それは見方を変えると、トウリさんが敵に回ったらハルカさんも敵になるということですか?」
「そうなるけど、絶対にそうはならないから安心してください」
心配そうにこちらを見てきたアリーシャにそう伝えると安堵の息を吐き出していた。
「ちょっと、先生。アリーシャを不安にさせないでくださいよ!」
「ごめんなさいね。でも、そういう可能性もあるということは理解しておくべきでしょう?」
「……確かにその通りです。ハルカさん、ご指導ありがとうございます」
「いえいえ」
そういえば、先生のプライベートって全く分からないな。まあ、俺が気にしていなかっただけで他の生徒は知っているのかもしれないけど。
そんなことを考えていたらあっという間に兵舎に到着した。
入り口ではヴィルさんが待っており、そのままライアンさんとギルマスがいる部屋に案内される。
中に入ると……おぉぅ、机を挟んでめっちゃ睨み合ってますね。
「失礼します、兵士長」
「んっ? あぁ、来てくれたのですね」
「おぉう! あんたが上級職の嬢ちゃんか! どうだ、ここは一つ冒険者になって俺様の下で仕事を――」
「私は冒険者にも兵士にもなるつもりはありません、そこのところははっきりとさせておきますのであしからず」
「……お、おぉぅ」
……そして、一番肝が据わっていたのは先生だったよ、うん。
「まずはライアン様、私がこの場に呼ばれた理由を教えていただけますか? リコット様からは昨日の件で色々と話を聞きたいとしか伺っていないものですから」
「あ、あぁ、そうだな。というわけだ、すまんがゴラッゾは下がってくれるか?」
「……」
「……おい、ゴラッゾ!」
「気に入った!」
……おい、ギルマス、何を言ってるんだ? 今のやり取りの中でどこをどう気に入ったんだ?
「俺様に面と向かって意見を言える度胸、さすが上級職だ! どうだろう、嬢ちゃん。今は引くが後ほど正式に冒険者へ勧誘させてくれんか?」
「ゴラッゾ、貴様!」
「正式な場であれば話はもちろん伺います。ですが、その際はこちらの真広君も同行させますがよろしいですか?」
「えっ、ちょっと、先生?」
「もちろん構わんぞ! がははっ! それじゃあな、ライアン!」
そう言ってギルマスは笑いながら去っていった。
「……えっと、なんというか、台風みたいな人でしたね」
「うふふ、面白そうな人じゃないの」
「えっ、先生ってああいう人が好みなの?」
「好みと面白いは別問題よ」
「……そうですか」
俺が先生と話をしていると、ライアンさんが咳ばらいをしたので意識をそちらへ向けることにする。
「失礼しました、ライアン様」
「あー、いや……では、話を伺わせていただきます。ですが、その前に――トウリ様」
「あ、はい。……って、様?」
いきなり兵士長で年上のライアンさんから様付けをされてしまい俺は驚いた。
だが、ライアンさんはそれが当然と言わんばかりに立ち上がると、そのまま頭まで下げてきたのだ。
「えっと、どうしたんですか? あの、頭を上げてください!」
「今回、私とリコットの命を救っていただき感謝申し上げます! あなたがいなければ、私だけではなく大事な部下の命まで失うところでした!」
「あの、本当に頭を――」
「このご恩は一生忘れません! そして、私にできることがあれば全力で協力させていただきます!」
……えっと、これはどういう状況なんでしょうか。
一緒に兵舎へとやって来たリコットさんへ顔を向けたのだが、こちらも驚いているのか俺とライアンさんの間で視線を何度も往復させている。
よく分からないが、俺が二人を助けたと勘違いしているみたいだ。
「……あの、ライアンさん。本当に顔を上げてください。今回の救出作戦は、俺だけでは二人を助けることができませんでした。アリーシャさんとヴィルさんがいてくれたからだし、二人がオークロードの脅威に負けることなく生き残ってくれていたから全員が今ここにいるんです」
「……ですが」
「ですがじゃなくて、そうなんです。だから、俺だけの力じゃなくてみんなの力なんですから、頭を下げるんじゃなくて顔を上げて笑顔を見せてくださいよ」
「トウリ様……ありがとうございます!」
なんかくさいセリフを言ってしまったが、正しいことだからはっきりさせなければならない。
俺の力は弱い相手に対しては単独でも有効だが、強い相手に対しては逃げるという選択肢以外ではほとんど無力と言っていい。というか、逃げることすら叶わなければ死を覚悟するしかないだろう。
だからこそ仲間の存在は大事であり、誰も欠けることなく生きていてくれたから鑑定士(神眼)の能力も活きてきたのだ。
「それじゃあ、改めて魔の森での出来事について整理しましょう」
「はっ!」
……うーん、なんだか俺が上司みたいに見えてくるからそんな返事は必要ないんだけどなぁ。
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