第52話:本当によくある勇者召喚 47

 ゆっくり休んだ翌日はグウェインからの質問攻めに答えていった。


「最初の質問は当然ながらこちらの方です! トウリは親しげにしてますが、まさかこの方も――」

「異世界人です。魔の森に行った時にたまたま同じタイミングで転移してきました」

「た、たまたまって……」

「秋ヶ瀬春香と申します。私の生徒を助けていただいたようで、本当にありがとうございます」


 年上の女性から頭を下げられたからか、グウェインは何故かおどおどし始めると顔を上げるよう口にしている。

 というのも、この場にはアリーシャだけではなくリコットさんもおり、女性二人からの視線がグウェインに突き刺さっていたのだ。


「ま、まあ、アキガセさんの正体が分かったから今の質問は終わりです!」

「ありがとうございます。グウェインさんはお優しいんですね」


 キラキラした笑顔で秋ヶ瀬先生がそう言うと、グウェインは分かりやすく照れてしまいにやけ顔になっている。

 まあ、先生は学校でも人気がある美人先生だったから、笑顔でそう言われたら照れてしまうのも仕方ないだろう。

 ただし、ここでも女性二人からの視線が突き刺さっているのだが、今回は全く気づいていないようだ。


「……ゴホン! とりあえず、リコットちゃんからの報告を聞きましょう。いいですか、グウェイン?」

「も、もちろんだ!」

「全く、男ってみんなそうなのかしらね?」

「……それを俺に聞かないでよ、リコットさん」

「あは、あははー」


 グウェインがかわいそうだと思いながらも助けることはできず、俺はそのままリコットさんの報告を聞くことにした。


「まずは一番重要な部分なんですが、魔獣の襲来はないということが分かりました」

「やっぱりギムレットって人の陰謀だったってことですか?」

「はい。ライアン兵士長の座を奪うためだったと自供もしています」


 どうやら、グランザウォールで一番の実力者であるライアンさんが偵察に向かうのは当然のことらしく、それを利用して始末しようと考えたのだとか。


「でもあの人、年の割にレベルは低かったですよ。そんな人がライアンさんの後を継ぐなんて無理なんじゃ?」

「ライアン兵士長の実力は抜きん出てたから当時は誰からも反対は出なかったんだけど、本来なら年功序列で兵士長になるの。ギムレットとしては我慢の限界だったんだと思うわ」

「リコットちゃんは完全に巻き込まれた感じなのね」

「そうですね。私もライアン兵士長のようになりたいって思いもありましたから」


 そこまで話をすると、先ほどまで顔を赤くしていたグウェインが真剣な表情でリコットさんに声を掛けた。


「リコット、その……ヌメルインセクトの件、改めてだけど本当にすまなかった」

「ど、どうしたのよ、急に。謝罪はもう受けたじゃないの」

「そうだけど、君が魔の森から帰ってこないと聞いて、もっと誠心誠意謝らないといけないって思ったんだ」

「……別にいいのに。でも、ありがとね、心配してくれて」


 ……むふふ、やっぱりグウェインとリコットさんは良い雰囲気を出してくれるじゃないですか。

 アリーシャも微笑ましく見ているようだし、これは姉公認の関係なのだね。


「……そ、それとね! アキガセ様についてなんだけど!」

「そうだね! そこも二人にとっては重要なところだもんね」


 恥ずかしくなったのかリコットさんが唐突に話題を変えてきて、それにグウェインが乗っかってきた。

 俺たちは顔を見合わせて笑みを浮かべると、そのまま先生についての話を聞くことにした。


「上級職ということもあって、グランザウォールで雇えないかって話が持ち上がったんだけど、門の前でのやり取りだったから冒険者の耳にも入ったみたいで、アキガセ様の取り合いが起きちゃってます」

「あら、私って人気者なのね」

「中級職でもそこまで多くないみたいですし、上級職は相当珍しいみたいですよ」

「こう言ったら真広君に悪いけど、他のみんなは中級職以上だったわよね?」

「……ま、まあ、そうだね、うん」


 本当は特級職でしたと言いたかったが、今は先生の処遇について決めなければならない。


「でもさリコットさん。先生は兵士にも冒険者にもならないって選択肢だってあるよね?」

「もちろんです。そこはアキガセ様の意思を尊重します」

「だったら私は真広君を守るために一緒にいることを選ぶわ」

「えっ、止めてよ。俺は俺で自由にこの異世界を楽しむつもりなんだから」


 異世界まで先生同伴、保護者同伴みたいなのはお断りしたい。


「どうしてよ! 私はあんなに真広君を心配していたっていうのに!」

「心配してくれるのはありがたいんだけど、俺は俺のやりたいことをやるだけだから」

「何をするつもりなの!」

「えっと、まずは……あぁ、これからも魔の森に転移してくる奴らがいるかもしれないから、その手助けとか?」


 まあ、これはついでみたいなところがあるけど先生にはこう言っておいた方がいい気がする。何故なら――


「素晴らしいわね! 私も力になるわよ!」

「ありがとう。それじゃあ、そいつらが転移してきたら先生が面倒を見てやってよね」

「もちろんよ!」


 ニコニコしながらそう言ってくれたので、先生の守りたい対象が俺ではなくこれから転移してくるかもしれない生徒に向けられた。

 ……おいおい、三人とも、そんな目で俺を見るなよ。これでも精一杯考えた最善策なんだぜ?

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