第47話:本当によくある勇者召喚 43

 これは、どうするべきか。……うん、俺だけの判断では決め切れないな。


「ちょっとみんな、相談があるんだけど……」


 俺は成功率が0か100かで表示されていること、魔獣を倒しても無視しても表示が同じであることを告げた。

 そして、どちらの選択が成功しそうかを相談する。

 移動しつつ考えを巡らせ始めたのだが、そこへ意見をくれたのは歴戦の兵士であるライアンさんだ。


「私は駆け抜けた方が良いと考えます」

「その根拠は?」

「はい。この先で戦っているだろう魔導師はおそらく上級職以上だと思われます。それは、これだけの魔獣に囲まれてなお生き残っていることが証明しています」

「異世界人が一人とは限りません。中級職が複数いる可能性は?」


 俺の質問に対して、ライアンさんはニヤリと笑い答えてくれた。


「そちらの方が好都合です。我々には、一時的に能力を上げる果物があるのですから」


 なるほど、ライアンさんの考えが理解できた。


「この先にいる異世界人を味方につけて、果物を食べてもらってから魔獣を倒した方が、生き残る確率が上がるってことですね」

「その通りです。我々のような騎士職は一対一であれば強さを発揮しますが、一対複数となれば不利になります。ですが魔導師は魔法で広範囲を攻撃することもできますから、複数の魔獣相手には必要不可欠な職業となります」


 この先にいる異世界人が俺に友好的な奴だったらいいなと思いつつ、まずは生き残ることを最優先に考えればライアンさんの提案を受け入れるべきだろう。


「分かりました。それじゃあ……よし、案内が出ました。一気に駆け抜けるので、着いてきてくださいね!」

「分かりました、トウリさん!」

「言っておくけど、私たちの方がマヒロよりも速いんだから遅れるわけないのよー」

「……えっ、そうなの? 俺、結構な数のぶどうを食べたんだけど?」

「あー……その、元々の数値が違い過ぎるので、我々は一粒食べれば十分なのです」


 リコットさんの言葉をヴィルさんが補足してくれた。

 ……うん、そうだったね。よくよく考えれば、アリーシャさんもバナナをそこまで食べてないのに魔力300越えって言ってたしね。


「……よし、行きましょう!」

「「「「開き直った!?」」」」


 開き直るしかないじゃないか! これ以上時間を無駄にするのももったいないしね!

 心の中で自分に言い聞かせながら、俺は前方の魔獣の群れへと突っ込んでいった。


『ゲバラッ!?』

『ピイイイイヒョロロオオオオッ!?』


 様々な魔獣が横切る俺たちに驚きの声をあげているが、振り返ることなく真っすぐに進んで行く。

 この先にいるのがいったい誰なのか、俺は少しの期待と大きな不安を抱きながら――ついにその姿を視界に捉えた。


「……おいおい、まさか、どうして!」


 そこには一番意外な人物が、体中から血を流して大木にもたれ掛かっていた。

 正義感が強く、誰よりもみんなのことを考えていてくれた。

 俺のために声をあげてくれたし、他の奴らのことだって見捨てないだろう人物の名前を、俺は叫んだ。


「秋ヶ瀬先生!」

「……真広……君……?」

『フシュラアアアアアアアアッ!』


 俺が手を伸ばすよりも先に、秋ヶ瀬先生がこちらに手を伸ばすよりも先に、蛇の魔獣の牙が秋ヶ瀬先生へと迫る方が早かった。


「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「サンダーボルト!」

『ブジュラアアアアアアアアッ!?』


 だが、蛇の魔獣は突如降り注いだ雷に撃ち抜かれると、黒い息を吐き出しながら秋ヶ瀬先生の目の前で倒れてしまう。

 ……えっと、いったい何が起きたんでしょうか?


「はあっ! はあっ! ……はぁ……はぁ……」


 そんなことを考えていると秋ヶ瀬先生は体から力が抜けたように膝を折り、大木を背にしてズルズルと座り込んでしまった。


「ア、アリーシャ! 秋ヶ瀬先生に、あの人にポーションを!」

「は、はい!」


 アリーシャの表情を見るに、先ほどの雷はアリーシャの魔法ではなさそうだ。

 ……ここで考えていても仕方がないか。まずは秋ヶ瀬先生を助けて、そして魔の森を脱出してから考えることにしよう。

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