第46話:本当によくある勇者召喚 42

 誰もが驚きを隠せないでいる中、最初に我に返ったのは俺が異世界人であることを知っていたアリーシャだ。


「……で、ですが、トウリさんの話では残りの方々は中級職以上だったはずでは?」

「そうですが、あいつらの都合が悪い相手がいれば始末するのは当然かと」

「なるほど……確かにそうかもしれませんね」

「鑑定スキルには、緊急ミッションとして【異世界人を救出しろ!】と書かれています。今までは俺に選択肢があったのに、今回は指示するように表示されたんです」


 無視してもいいのかもしれない。アリーシャたちを助けるためにはおそらくその方が確実なのかもしれない。

 だけど、何故かここでこの指示を無視してしまったら、俺の中にずっとしこりとして残り続けるだろうと思えてならない。


「……皆さん、これは俺の我儘ですが、どうか俺に力を貸してくれませんか?」


 アリーシャは頷いてくれる気がする。だけど他の三人はそうではないだろう。

 特にライアンさんは今日が初対面であり、領主であるアリーシャを守ることを第一に考えるはずだ。

 最悪の場合は俺一人で同級生を助けに行くことになるだろう。


「私はマヒロを助けるわよ!」

「私も行きましょう」

「部下が行くと言っているのだから、上司である私だけ逃げるのは示しがつきませんな」

「皆さん……あの、本当にいいんですか?」


 まさかの即答に驚いてしまい、逆に聞き返してしまう。

 だが、三人の答えを聞くと当然の回答と思えた。


「だって」

「領主であるアリーシャ様が」

「行く気満々ですからな!」

「行きましょう、トウリさん!」


 鼻息荒く気合を入れているアリーシャを見て、俺は思わず笑ってしまった。

 そして、頭を下げて四人にお礼を口にする。


「ありがとうございます! それじゃあ、それぞれ必要な果物を食べてから向かいましょう。魔法を使ったということは、そこに魔獣がいるはずですから」


 そして、あの爆発音を聞いてさらに魔獣が集まっている可能性だって否定できない。

 俺とアリーシャはバナナを食べた後にぶどうを食べて、兵士三人はぶどうとりんごだ。

 りんごはぶどうと違い大きいので食べるのに難儀しているようだったが、筋力を倍にしなければ魔の森の魔獣とは戦えないので致し方ない。

 しかし、俺が魔の森に転移させられてから結構な日にちが経っている。今の時点で転移させられるということは、相当下手を打ったのだろう。


(それだけ下手を打つような奴って誰だろう。同じクラスに不良とかいたっけか?)


 ……考えてみたけど思い当たらない。

 特級職の四人が来るわけもないし、簡単に切り捨てられるとなれば中級職の奴らだろうか。


「……まあ、行ってみたら分かるか」


 助けることで俺が不利になることはないだろう。もしそんなことがあれば、以降は手を貸すこともないだろうし。


「トウリさん、準備ができました!」

「よし、行きましょう!」


 俺は案内に従い森の奥へと進んで行く。

 周囲には魔獣の気配はなく、先ほどの爆発を受けてそちらに集まり始めているようだ。

 助けるにしてもまずはこれらの魔獣を排除、もしくは無視して駆け抜けなければならないのか。

 ……そういえば、今回の指示の成功率はどれくらいあるのだろう。先ほどまでの10%とは異なっていそうだし、確認しておくか。


「……な、なんだ、この表示は?」


 今までの攻略法では確率が一つしか表示されていなかった。

 だが、今回に関しては極端な数字が二つ表示されている。


(0か100かよ。これ、絶対に失敗できないやつだな)


 頭を掻きながら案内の指示通りに進み、視界の先には魔獣の姿も多くなっていく。

 魔獣を倒すのか無視するのか、どちらの選択がより成功を手にできるのか確認しようとしたのだが……おいおい、なんだよこれは!


「どっちを選んでも0か100って……変わらないってことは、こっちの行動次第ってことか!」


 それは同時に、俺の選択に全員の命が懸かっているってことでもあるんだよな!

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