第32話:本当によくある勇者召喚 28

 だが、俺の提案をアリーシャもグウェインも認めてはくれなかった。


「ダメだ、危険過ぎる!」

「そうですよ、トウリさん。レベルが上がったとはいえ、まだまだ能力値が低いことに変わりはないんです。ここは兵士長とリコットちゃんを信じて待つしかありません」

「でもなぁ……」


 正直なところ、俺もリコットさんのことが心配なのだ。

 気を失っていた三日間、リコットさんは毎日お見舞いに来てくれていたと言うし、目を覚ますまでの間はずっと責任を感じ続けていただろう。

 それに続いての魔獣襲来の凶報である。

 俺を守る……とまでは思っていないだろうけど、グランザウォールを守るために今度こそ役に立ってみせると奮い立ったのかもしれない。


「……ヴィル、兵士長とリコットちゃんはいつ頃戻ると言っていましたか?」

「予定では今日の夕方には戻ってくるかと」

「分かりました。それまでは様子を見ましょう。そして、もし夜になっても戻ってこない場合には対策を考えます」

「分かりました!」


 ヴィルと呼ばれた兵士は左胸に右拳を二回当てると、駆け足で戻っていった。


「……これでいいですね。グウェイン、トウリさん」

「……その、すまない、姉さん」

「いいのよ、これくらい。それに、忙しくなるのはこれからかもしれないんだからね」

「そう、だね。……よし、僕も働くよ!」

「ありがとう。ということだから、トウリさん。申し訳ないのだけど、今日のレベル上げは中止ですね」

「まあ、こういう状況だから仕方ないよな」


 全く気にしていなかったので俺はすぐに返事をしたのだが、ふと気になったことを試すべくアリーシャに質問をする。


「なあ、アリーシャさん。兵士長の名前って何て言うんだ?」

「名前ですか? 兵士長はライアン・スノウですが?」

「ライアンさんにリコットさんか……よし」


 俺がぶつぶつ呟いている姿を二人は心配そうに見つめている。

 だが、これからやることは特段危険なことではない。むしろ今までに何度もやってきたことだ。

 ただし、対象が食べ物や魔獣ではなく、特定の人物になるというだけ。


「鑑定、ライアン・スノウとリコット・アーティスト」


 俺が鑑定スキルを発動すると……おぉ、きたきた。

 リコットさんがレベル15で、ライアンさんが……レベル30!


「ライアンさん、めっちゃ強いじゃん」


 能力値はほとんどが90台だし、筋力に至っては100を超えている。


「……それにしても、銀級騎士ってなんだろう」

「……ト、トウリさん?」

「……トウリ、まさか、兵士長の鑑定まで、できるのか?」

「うん、できてるみたいだね。それが何か?」


 何でそんなに驚いた顔をしているのだろうか。

 人物鑑定といえば文字通りに人物を鑑定することだろうけど、そんなに驚くことなのかな。

 ライアンさんの鑑定ができたことに驚いているっぽいけど、銀級騎士って何か特別な職業なのだろうか。


「やってみたらできたけど、普通じゃないのか? ほら、魔獣を鑑定する時みたいにさ」

「……ふ、普通、レベルの高い相手を鑑定することはできないはずなんです」

「トウリのレベルは確か2だよね? 本当に1しか上がらなかったんだよね?」

「そうだけど……まあ、できちゃったものは仕方ないよね。というか、レベルの高い相手を鑑定できないなら魔の森の魔獣を鑑定することもできないはずでしょ」


 俺は笑いながらそう口にしたのだが、二人の表情は固まったままだ。

 だけど、鑑定ができたことで現時点での二人が無事であることははっきりした。


「二人の場所を示す案内が動いているから、魔の森の中を移動しているんだと思う。だから今のところは無事みたいだね」

「……トウリ、まさかそれを確かめるために?」

「まあね。そこまで魔力も使わないし、何だったらしばらくはそのまま見ておくことだってできるよ」

「トウリさんって、本当に規格外なんですね」


 規格外かどうかは他の特級職を見てみないことには分からないけど、鑑定に関しては規格外でよかったと今になって思うよ。


「とりあえずは今日の夜まで様子を見ましょう。一応、さっき言ったみたいに、俺は鑑定スキルで二人の状態とかを逐一確認しておきます」

「……本当にありがとうございます。では、何かあればすぐに私へ知らせてくれますか? その時にはすぐに動きたいと思いますので」

「分かりました。グウェインもこれで少しは安心できた?」


 現在はという注釈は付くものの、リコットさんは無事なのだからグウェインが罪悪感を覚える必要はない。

 むしろ、今はアリーシャを支えるために自分にできることを必死でやってもらう必要があるくらいだ。


「そうだね……うん、ありがとう、トウリ。さっきの話で自分を納得させたと思っていたけど、トウリの話を聞いて、より一層落ち着くことができたみたいだ」

「それならよかった。俺に手伝えそうなことがあったら何でも言ってくれよな」

「……頼りにしてるよ、トウリ」

「任された」


 俺はできる限りの満面な笑みを返すと、グウェインもぎこちなさはあったものの笑顔を返してくれた。

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