第31話:本当によくある勇者召喚 27

「「……低くないですか?」」

「そ、そうなの!? 結構上がったんだけど!」


 ……あれ? そもそも、普通がどの程度の数値なのかを俺は知らない。

 もしかしたら倍以上増えるのが普通で、俺の元々の数値が低いってことなのかな?


「……あの、俺の数値は軒並み5とか10だったんだけど、これは低いのかな?」

「正直に申しますと、相当低いです」

「そうだね。僕でもレベル1の頃で一つの能力につき15とかはあったし、高いものだと20とかもあったかな」

「……そ、そうなんだ。俺って、元々がだいぶ低かったのか。能力値が倍以上増えたからてっきり高いものだと――」

「「ば、倍ですか!?」」


 ……おぉぅ、そこに驚くんですね。


「そ、そうですね。筋力と耐久力と速さが5から20に、魔力と器用は10から30になってます」

「……お、おそらく、この増え方が特級職と初級職の大きな違いなのかもしれませんね」

「驚いたよ、トウリ。この調子なら、すぐに戦える鑑定士になれるんじゃないのかな」

「あはは、だといいんだけどね」


 俺はそう口にしながらも、とある不安を抱いていた。

 レベルが上がれば能力値が大幅に増えるのはありがたいことだ。しかし、これはあくまでもレベルが上がればの話であり、その上がるまでの経験値が問題なのである。

 レベル差10倍のブルファングを倒して1しか上がらなかった。次に同じブルファングを倒しても上がらないかもしれない。

 そう考えると、レベル上げってものすごく大変なんだと実感することができた。


「……ゲームでは簡単だったんだけどなぁ」


 手元を動かすだけでキャラクターが動き、敵を倒してレベルアップ。時には見ているだけで勝手に戦ってくれるものまであったりもした。

 しかし、ここでは自分で魔獣と戦い、殺し、経験値を得なければならない。

 分かっていたことではあるが、いざ魔獣と対面すると恐怖が襲い掛かってくるんだもんな。


「でも、これだけの数値であればブルファングを倒すのも結構楽になるんじゃないかな」

「そうですね。リコットちゃんもまた護衛をしたいと言っていましたし、グウェインのいたずらさえなければ彼女はとても優秀ですから」

「そ、それは言わない約束でしょう、姉さん」

「そのような約束をした覚えはありませんね」


 慌てたように声をあげるグウェインに対して、アリーシャはそっぽを向きながら言い返す。

 楽しそうに会話をしている二人を見ていると、俺の不安は徐々に薄れていった。


(……ありがとう、二人とも)


 食事を楽しみながら今日もレベル上げをしに行こうかなと考えていると――


 ――ガランガランッ!


 突然屋敷のベルが激しく鳴った。

 三人で顔を見合わせると、すぐにアリーシャが立ちあがったので俺とグウェインも玄関の方へと向かう。

 扉を開けると、そこには息を切らせて膝に手を付いている兵士の姿があった。


「どうしましたか?」

「あ、朝早くから、申し訳ございません! ま、魔の森から、魔獣の咆哮が聞こえたと報告が入りました!」

「な、なんですって!?」

「前回の襲来からそこまで日も経っていないというのに!」


 ……な、何が起きているというんだ?

 魔の森から魔獣の咆哮が聞こえただけではないのか。グウェインは襲来と言っているが、この咆哮が魔獣襲来の合図だとでも言うのだろうか。


「偵察には誰が向かったのですか?」

「兵士長とリコットが向かっています!」

「リコットだって!?」


 今度はグウェインが驚きの声をあげた。


(レベル15の下級職では偵察に不向きな人選ではないのか?)


 そう思っていたのは俺だけではないようで、グウェインは人選の理由を聞き出そうと兵士に向かって声を荒げている。

 だが、今の問題はそこではない。


「グウェイン、一旦落ち着こう」

「これが落ち着いてなんていられないだろう! リコットの能力値は筋力と耐久力が高い反面、速さは低いんだ。それ以前にレベルも適していない、それなのにどうして偵察なんかに……」

「落ち着け、グウェイン!」


 俺はこの世界に来て初めて人間相手に怒鳴り声をあげた。

 グウェインはもちろんだが、アリーシャも兵士も驚きの表情で俺の方を見ている。


「……すみませんが、リコットさんは誰かに指示されて偵察に向かったんですか?」

「あの、あなたは?」


 まあ、部外者に兵士間のやり取りを教えるのは警戒するだろう。


「構いません、答えてください」

「わ、分かりました」


 しかし、こちらには領主であるアリーシャがいるので問題はなかった。


「リコットは自らの意思で兵士長に同行を願い出ていました」

「やっぱりな」

「だけど、リコットはどうしてそんなことを」


 あー、これはおそらく俺のせいだ。


「……もしかしたら、リコットちゃんはトウリさんを危険に晒してしまった責任を感じて、危険な偵察の同行を願い出たんじゃないかしら」

「そんな!」


 グウェインは驚きの声をあげているが、仕方ないだろう。

 この状況は、巡り巡ってグウェインが冗談半分で行ったいたずらが、端を発したことだと言えなくもないのだ。


「……僕のせいで、リコットが?」


 ……さて、こうなってはやることはすでに決まったも同然だ。

 正直、まだ心もとないし職業のことがバレる危険性もあるけど、人の命には代えられないよな。


「……俺が魔の森に向かうよ。そして、二人の無事を確かめられれば問題ないだろう?」


 そう、鑑定士(神眼)なら二人の居場所を見つけ出すこともできるし、戦闘となれば俺は戦えないものの、攻略法をアドバイスできるかもしれないしな。

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