第27話:本当によくある勇者召喚 24
匂いは偽装されているものの、足音はどうしようもないのである程度進んだ先で身を潜めている。
しかし、俺が隠れていることに気づいたのか、ブルファングは警戒しながらこちらを窺うような動きを見せている。
そんなブルファングの前に、俺はあえて飛び出した。
「おらあっ! やってやんぞこの野郎!」
『フゴッ!?』
突然の襲来に驚いたのか変な鳴き声をあげたブルファングに対して、俺は渾身の一撃を振り下ろす。
――ブヨンッ!
……うん、こうなることは分かっていましたよ!
『……フゴオオオオオオオオッ!』
「どわああああああああっ!」
そして、俺は全力で逃げ出した。
逃げるルートは鑑定スキルが示してくれるので、その通りに進んでいく。
ただし、案内通りに俺の体が動いてくれるかは俺次第なのだ。
「うおっ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、きっついなあっ!」
地面から飛び出していた木の根に躓きそうになりながらもなんとか踏ん張り、俺は足を前に運んでいく。
『フゴオオオオオオオオッ!』
一方のブルファングはというと、俺が木と木の間を抜けて逃げたりしているので、巨体が引っ掛かったりしてなかなか追いつけないでいる。
そのせいもあり、苛立ちが募り大きな鳴き声でこちらを威嚇してきた。
「威嚇されても、俺は逃げるだけだよ!」
正直、後方からの鳴き声と合わせて木をなぎ倒しながら近づいてくる足音に、何度も心が折れそうになっている。
元々体力なんてないわけで、こうして走っているだけでも苦しいのだから、マジでもう立ち止まりたい!
「だけど、ここで立ち止まったら、今度は、リコットさんが危ないからな!」
俺だけだったら諦めていたかもしれない。
だが、今の俺の足にはリコットさんの命も懸かっているのだ……たぶん!
だから、絶対に諦められないんだよ!
「こぉぉなぁぁくぅぅそおおおおっ!!」
何度も木の間を抜けては、後方でものすごい音を立てて倒れていく。
時折木の破片が飛んでくるが、気にせずに走り続ける。
そして、鑑定スキルによる案内最後の指示が目の前に表示された。
「これで、ようやく、終わりだああああっ!」
最後の指示の場所にやって来た俺は雄たけびを上げながら――走り幅跳びのように跳躍した。
これで鑑定スキルの案内は終わり、最後に『ミッションコンプリート!』とお祝いのようなメッセージが表示された。
『フゴオオオオオオオオッ!』
「いやいや、まだコンプリートしてねえからなっ!」
鑑定スキルに文句を言いながら、俺は振り返り片手剣を構える。
すぐ先には鬼の形相で迫ってくるブルファングがだんだんと大きくなってくる。
ゴクリと唾を飲み込みその時を待っていると――俺は目を見開いた。
――ツルンッ!
『フンゴオオオオオオオオッ!?』
「よし、ヌメったな!」
ブルファングを誘い込んだ場所には、ヌメルインセクトのヌメヌメが地面に残っていた。
そのヌメヌメに躊躇いなく足を踏み込んだブルファングは、これでもかというくらい豪快にすってんころりんと仰向けに倒れてしまった。
そのまま滑って俺の前まで来たのだが、その姿はブルファングの皮膚の中で唯一柔らかいお腹を晒している格好だ。
「これで、ミッションコンプリートだ!」
『フ、フンゴオオオオオオオオッ!!』
片手剣の切っ先を躊躇いなくブルファングのお腹に突き刺すと、背中の皮膚とは違い一気に刀身が飲み込まれていく。
ちなみに、突き刺す場所に関しても鑑定スキルの指示が出てきており、一突きでブルファングの心臓を貫くことに成功していた。
『フゴ……ゴォ……ォォ…………』
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……これ……勝った、のか?」
動かなくなったブルファングを見つめながら、俺の足がついに限界を迎えてその場に座り込んでしまう。
座ってから見つめると、その大きさがよく分かる。
「……こいつ、見上げるくらい大きかったんだな」
でかいし太いし、こんな奴に突っ込まれてたら一発で即死だっただろうなぁ。
「……そうだ、リコットさんは……よかった、無事だな」
リコットさんの近くには魔獣もいないし、グランザウォールに戻っていたグウェインもすでに林の中に入ってきている。他の兵士か冒険者と一緒なのだろう。
「あー、疲れたー。……いろいろと確認したいけど……ちょっと頭が……回らない……なぁ」
体の力が抜けてしまいその場で寝転がった俺は、強烈な疲労感に負けて意識を失ってしまった。
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