第28話:王城 3

 ――王城のとある一室。

 そこではシュリーデン国王と王妃、そして一人娘の王女が密談を交わしていた。


「あの女……ハルカと言ったか。全く、勘の鋭い大人は必要ないというのに」

「どうして御しやすい子供に絞った勇者召喚で、あのような者が含まれていたのか」


 国王であるゴーゼフ・シュリーデンが嘆息しながらそう口にすると、同意するように王妃であるアマンダ・シュリーデンが追従する。


「ですが、私の転移魔法によって魔の森に飛ばしましたから関係ないですよ、お父様、お母様」


 転移魔法を操るのは王女であるマリア・シュリーデンである。

 そして、春香がシュリーデン国を疑っていると見抜いたのもマリアであった。


「本当に、お前は人を見る目があるのう」

「さすがは私とあなたの娘よね」

「今では勇者様も他の方々もレベル上げに励んでおりますし、しばらくは落ち着くのではないでしょうか」


 窓の外に目をやると、王城の広い庭では騎士の指導の下で生徒たちが訓練に励んでいる。

 その中でも特に成長著しいのは特級職の四人。


「コウヤ様とアラタ様、マドカ様とユリア様は素晴らしいですね」

「さすがは特級職というところか」

「ですが……マドカ様とユリア様は、何かを隠しているように見えます」


 そう指摘したのもマリアだった。


「……何か見えたのか?」

「あの二人には、胸のところに黒いもやが見えております」

「黒い靄というのは、ハルカにも見えていたのと同じものですか?」

「はい、お母様。もしかしたら、マドカ様とユリア様も、危険人物になり得るかもしれません」


 マリアは魔眼という珍しいスキルを持っている。

 魔眼を発動させながら相手を見ることで悪感情を持った人物を見定めることが可能となり、それが黒い靄として現れる。


「現時点では小さな靄なので、こちらに疑いを抱いているものの確証はない、といったところでしょうか」

「ハルカの時はすぐに排除するべきと言っていたが、それとはまた違うのか?」

「はい、お父様。ハルカの靄は上半身を包み込むようにして現れていました。あの状態になると、こちらがどれだけ言葉を重ねても、そう簡単には気持ちが変わることはないでしょう」

「まあ、彼女の場合は上級職でしたからすぐに切れましたが、マドカ様とユリア様は特級職ですからねぇ……もう少し様子を見てもいいかもしれませんね」

「ですがお母様、特級職のレベルが上がれば、魔の森とはいえ生き残る可能性が高くなってしまいます。残すか切るか、そのご判断は早めがよろしいかと」


 マリアの助言を、ゴーゼフとアマンダは受け入れた。

 シュリーデン国の精鋭を魔の森に派遣し、転移魔法陣を刻んだのが四十年程前のことである。

 特級職が一名と上級職が五名、当時では敵う者おらずと言われた精鋭だったのだが、それでも魔の森の入り口付近にしか辿り着くことができなかった。

 極秘の計画だったこともあり転移魔法陣を設置後、その魔法陣を使いシュリーデン国へと戻ってきたのだが、証拠隠滅を図るために転移魔法陣を刻んだ特級職以外の上級職五名は、その場で首を落とされた。

 特級職の実力は上級職五人分の実力だと言われている。

 レベルが高くなればなるほど、特級職二人が魔の森に転移した時に生きて森を脱出する可能性も高くなってしまう。


「そうだな……レベル10が判断できるギリギリと見ておくか」

「そうですね、あなた。その時点で黒い靄が消えていなければ、小さな靄であっても排除いたしましょう」

「勇者と剣聖。二人の特級職がいれば、世界をシュリーデン国が制する日も近いでしょうからね。特に――勇者がいれば」


 マリアはそう口にしながら、視線を騎士団長と訓練をしている光也へと向けた。


「特級職はカリスマスキルを持っています。勇者であるコウヤ様は特に高いレベルを保有しているでしょうが……お父様には敵いませんね」


 光也は自らのカリスマスキルのおかげで生徒たちが大人しくしていると思っている。

 その理解は正しいのだが、自らもよりレベルの高いカリスマスキルのせいで大人しく従っていることには気づいていなかった。


「マドカ様とユリア様は、スキルを発動させる前に疑いを持たれてしまいましたが。……疑いを持たれた状態では、カリスマスキルも効き難いですからね」

「まあ、そういう者も少なからず出てきてしまうだろう」


 シュリーデン国の王であるゴーゼフのカリスマスキルはレベル10、つまり最高値を誇っている。

 光也と新は気づかないうちに、ゴーゼフの持つカリスマスキルに思考を停止させられていた。


「うふふ、早く預言者の言う通りにあの力を発現してくださいね、コウヤ様」


 そして、今はまだ発現していないその力が光也に現れるのを、王族は今か今かと待ちわびるのだった。

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