第2話:本当によくある勇者召喚 1

 ――時を数日だけ遡ることにしよう。


 俺は日本の高校に通うラノベ好きな普通の高校生だった。

 今日もいつもと変わらずに朝の読書でラノベを読み、休み時間にもラノベを読み、お昼だって弁当を食べながらラノベを読んでいた。

 そして、本日最後の授業を受けていたその時である――


「へっ?」


 突如として教室全体が真っ白な光に包まれたかと思ったら、瞬きをしている間に全く見知らぬ場所へ移動していたのだ。

 まあ、いわゆる異世界転移ってやつなんだろうけど、まさか現実世界で自分の身に起きるとは誰が予想するだろうか。


「そなたらが異世界から来た勇者たちか!」


 すると、俺たちの目の前で威張り散らした感じで豪奢な椅子に腰かけている人物がそう口にした。

 ラノベを読み漁っている俺ですらすぐには状況を把握できなかったのだから、そう言った本を読んだことのない奴らにとっては混乱の最中だろうにと思っていると、正義感の強い生徒会長が立ち上がって口を開いたんだ。


「あの、ここは何処なんですか? あなた方はいったい?」

「おぉ、確かにいきなりであったな!」


 そう口にした王様だったが、説明は隣に立っていた貴族然とした銀髪の男性がするようで王様は顎で命令をしている。

 一歩前に出てきた銀髪の男性が言うには、俺たちはやはり異世界転移――この世界で言うところの勇者召喚によって、この世界へ連れて来られたのだとか。

 そして、勇者の周囲には上級職を持つ者が自然と集まることから、1クラス丸々が勇者召喚されたのだという。


「……な、何を言っているんですか!」


 ここで立ち上がったのは唯一の大人であり、それこそ一番巻き込まれた感が強い、数学を担当していた女性教師が声を荒げた。


「わ、私たちを早く日本に帰してください! この子たちはまだ子供であり、家族がいるんですよ!」


 うん、正論ではあるが、こういう時は大体が――


「申し訳ございませんが、今すぐにというのは難しいのです」


 銀髪の男性はそう言っているけど、今すぐにということは時間があれば帰れるのだろうか……本当かなぁ。


「では、どうしたら日本に帰していただけるのですか?」


 多少ラノベなりゲームをしている面々は徐々に落ち着きを取り戻しつつある。

 となれば、多くの生徒がこの後の展開についても予想しているだろうし、どうしようかとも考えているところだろう。


「我々もむやみやたらにこのようなことをしているわけではありません。助けを求めて、皆様をこの国――シュリーデン国に召喚したのです」


 そこからは銀髪の男性が淡々とシュリーデン国の状況と、そして俺たちが何をすべきなのかを語り始めた。

 まあ、そっちの都合はどうでもいいとして、この世界にステータスの概念があり、なおかつすぐに確認できるのは非常に助かる。

 特別な場所に行かないとステータスを見られません、とかになれば面倒事に巻き込まれることも多かろう、召喚された側の身分の場合は。


 俺たちは自分の職業を確認するようにと言われて口々にステータスと唱えていく。

 その中でみんなが普通に職業を口にしていく中で、俺は一人だけ何も言わずに職業だけではなくステータスを隅々まで眺めていた。


(運が100ってどういうことだ? まあ、異世界に来られた時点で確かに運はいいのかもしれないけど、そう思っているのは俺くらいなもんだろうし、何かの役に立つのか?)


 そんなことを考えていると、一番前の方でどよめきが起きた。


「おぉっ! お主がやはり勇者であったか!」


 どうやら勇者がいたようです。

 俺は顔を上げてどよめきが起きた方に視線を向けると――最初に口を開いた生徒会長だった。


「お主、名前を聞いてもよいか?」

「か、神貫かみぬき光也こうやです」

「カミヌキコウヤ殿か! ……うむ、勇者というだけあって凛々しい顔立ちをしておる!」


 周囲の騎士っぽい人たちからも歓声が上がり、生徒会長もまんざらではなさそうな顔をしている。

 そして、すぐに他の生徒たちの職業も判明していく。

 副会長は賢者、剣道部が剣聖、陸上部が拳王、この辺りが最も騒がれていた職業で、勇者を含めたこの四つの職業は特級職と呼ばれる特別な職業なんだとか。

 それ以外だと上級職、中級職、下級職、そして底辺の初級職。

 そして、どうやら他の生徒も大半が上級職で、低くても中級職だと広間は大騒ぎだ。


「……あのー」


 これなら俺の職業である鑑定士(神眼)も期待できると手を上げてみた。


「おぉっ! お主にはまだ聞いていなかったな。して、職業は何なのだ?」

「えっと、俺の職業は鑑定士です。その後ろに――」

「か、鑑定士じゃと!?」


 ……あ、あれ? なんか、予想外の反応なんですが。

 王様が驚きの声をあげると数秒だけ沈黙が続き、そしてドッと笑い声が広がった。


「……えっと、何事?」


 俺だけが困惑している中、王様が手を上げると笑い声は一斉に止んだ。

 そして、次に口を開いたのは王様ではなく銀髪の男性だった。


「あなたの職業である鑑定士は――初級職です。底辺の初級職なんですよ」


 そう口にすると口元を手で隠して笑いを堪えようとしている。

 説明するだけでも笑ってしまうのかと少しだけ悔しかったが、(神眼)のことを伝えれば態度も一変するだろう。


「あの、その鑑定士の文字の後に――」

「あー、もうよい、お主は喋るな。初級職がこの場にいることなど普通はあり得ないのだからな」

「いや、ですから文字の後に括弧が付いて――」

「誰か! 奴を摘み出せ!」

「いぃっ!? わ、分かりました、黙りますよ! もう何もしゃべりませんから!」


 兵士に槍を突き付けられながら囲まれてしまったので、俺は(神眼)について聞くことができなかった。

 クラスメイトは何やらこそこそと話をしているのが見えたが、あれは絶対に悪口である。まあ、俺だけ初級職だと分かればそうなるのも無理はない。

 この時の俺は鑑定士という職業に期待していた分、落胆も大きかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る