短編 聖なる日の贈り物3
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「ブッシュドノエルには紅茶の方が合うかと思って、この前いただいた紅茶があったから。タケルくん、紅茶も好きだったよね?」
先生がリーフが入った白い陶磁器のポットと、ケーキ皿を乗せたお盆を持って2階から降りてきた。
「あ!さすが!テーブル綺麗になってる」
多分、僕と一緒に食べるつもりだろうと、テーブルの上を片付けておいた。
楽譜やらコンクールの資料やらで、どうしてもレッスン室のテーブルは荒れがち。
小さい頃は、このテーブルで聴音とか楽典の勉強もしたなぁ。
そのテーブルに、今、僕の作ったブッシュドノエルが乗っている。
「ろうそく、どこに立てたらいいかなぁ。サンタさんの横?なんか壊しちゃいそうでもったいない」
箱の中に、トシさんが細くて真っ赤なろうそくを入れてくれていた。
遠慮した僕に、在庫がたくさんあるからいいよ、と。もしかしたら、一緒にフーッとかできるかもよ、と横でニヤニヤしているカナコ先輩もいた。
「よし!火をつけて…部屋を暗くして写真撮ろう!!インスタ映え!!!」
先生がレッスン室の照明を落として、スマホで撮影開始。
なんだか楽しそう…こんな顔が見られるなんて。カナコ先輩にどやされながら作ってよかったなぁ。
撮影をし終わったと思ったら、自分のグランドピアノのところに小走り!
先生のピアノのすぐ横にある窓から月の光が薄く差し込んでくる部屋の中で、四声体のような響きが聴こえる。
バッハ…?いや、違うな。
2部形式?
ああ、後半の方がおなじみのメロディーだ。
よくクリスマスで聴くけど、なんてタイトルなんだろう。
メロディアスな部分に入り、先生の奏でる音の響きに惹きこまれていく。
ふと、スマホを取り出してブッシュドノエルと、ピアノを演奏する先生のアングルでこっそり撮影。
「ねぇ、この曲知ってる?」
ふと演奏が終わる。
「クリスマスソングですよね?タイトルは知らなくて」
「そうだよね、荒野のはてに、って言うの。私、中学までプロテスタント系の学校に通っててね。この時期は、この曲ばっかり歌ってたんだ」
テーブルに戻ってきた先生が、ろうそくを見つめながら続ける。
「
「え…先生がどうぞ」
ニヤニヤするカナコ先生が思い浮かぶ。
「そっか、高校生になると恥ずかしいか。じゃあさ、一緒にしよう、ちゃんとフーッしてよ?」
「え、僕も?」
「私ひとりだと恥ずかしいでしょ!タケルくんは、そっちのろうそくね、はい、せーのっ!」
…
ろうそくの火がまたたいて、消える。
暗闇の中に見える先生の笑顔。
クリスマスイブの夜のレッスンスタジオ。
まさか、こんな特別な時間を先生と共有できるなんて…
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