短編 聖なる日の贈り物2
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『レッスンが終わるのは何時頃ですか?渡したいものがあります』
カナコ先輩にどやされながら…もとい、手伝ってもらいながら作ったブッシュドノエルが出来た頃に、僕ははるか先生にLINEした。
きっとレッスン中だろうから、返事はすぐに来ないな。
夕飯前の時間になり、仕事帰りのお客さんが次々と予約したホールケーキを受け取りにくる。
受け取り予定時間になっても取りに来ないお客さんに電話をしたり、色々と作業が多い。
夜7時になり、一旦収まったところでLINEを見ると返答がきていた。
『8時半頃かな』
よし!8時閉店で後片付けをして、それからレッスンスタジオに向かおう!
レッスンスタジオに到着したのは8時45分。
レッスン室の明かりはついているけど、太一君のお母さんのクルマがないから、レッスンは終わっているのだろう。
そのまま入るか迷ってから、やっぱりドアホンを鳴らす。
レッスンに来るときは鳴らさないから、ちょっとドキドキするな…。
「タケルくん?入っていいよ~」
先生の明るい声が聴こえる。太一くんのポロネーズ、仕上がり良かったのかな?
レッスン室に入ると、先生はレッスンの後片付けをしていた。
「いらっしゃい。どうしたの?クリスマスイブにレッスン室に来るなんて、色気ないぞ?」
生徒が演奏する側のピアノの蓋部分を、黄色いクロスで吹きあげている先生。
「これ、先生にクリスマスプレゼント、と思って」
僕は、ケーキの入った箱を先生に差し出した。
箱に貼られてるお店のシール「
「あれ?だって今日、お店にクリスマスケーキ買いにいったじゃない?タケルくんが選んでくれたフルーツタルト、美味しかったよ?」
「そうなんですけど…開けてみてください」
「うん」
不思議そうな顔で真っ白なケーキ箱を受け取り、テーブルに置いて開く。
「……え?!」
驚いて僕を見る先生。
「予約じゃないと食べられないんじゃなかったの?」
「そうなんです。だからそれは僕がお店に人に手伝ってもらって作って…」
もう一度、ケーキ箱の中にあるブッシュドノエルをまじまじと見る先生。
「うそ…このブッシュドノエル、タケルくんが作ったの?」
「少し手伝ってもらいながら…」
「え…でもタケルくんが作ったんだよね?」
「まぁ、お店の人も忙しかったので」
そう、カナコ先輩は他のケーキも作りながらだったから、横でもっと死ぬ気で混ぜろとかどやされながら僕が作ったのだ。
「お店のブッシュドノエルにしか見えないんだけど…」
「材料はお店のものを使わせてもらっているので、間違いないはずです」
「す…すごすぎる…ちょっと待って。ケーキ皿よ、ケーキ皿とコーヒーでいい?あ、紅茶の方がいいかな、ちょっと2階で準備してくるから。
バイト帰りなんでしょ?ちょっと座ってゆっくりしてて」
先生がブッシュドノエルと僕を置いて、バタバタと2階に上がっていく。
喜んでもらえてるのかな?
―――色気がないなんて、とんでもない。
僕は下心を持って、クリスマスイブに先生のいるレッスン室に来たんだ。
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