短編
短編 聖なる日の贈り物
いつも「ピアノ男子の憂鬱」を応援いただきありがとうございます。
今日はクリスマス!ということで、クリスマスショートをスター特典にさせていただきました。
高校1年のクリスマス。
タケルはどんなクリスマスを過ごしていたのでしょう…?
2日連続でお届けします♪
1
今日はクリスマスイブ。
ケーキ屋は、1年でも最も忙しい時期だ。
「ありがたいことにね、クリスマス前は、朝から晩まで忙しくてね…イブまでくればほぼゴール…」
僕のバイト先のオーナー、トシさんはこの一週間でやつれたように見える。
「それでもさ、クリスマスケーキはホールの受注のみにして、事前に作ることはなるべくしないようにしてるから、うちは楽な方よ」
もう一人のオーナーである、カナコ先輩がトシさんの背中をポンと叩いて言う。
「そうだよね、二人で作れる量しか受注してないから、他に比べたらね…ホテルに勤めてたころは、本当に地獄だったもんなぁ」
ケーキ屋の中には、スポンジを1か月前から作り始めるなどクリスマス商戦に全力を傾けることもあるらしいけど、『丁寧に自分たちで作れるだけ』というポリシーで無理はしていないようだ。
それでも色々と仕込みも多く、注文を断る電話やメール、LINEなども僕らの作業を増やしていた。
夏休みの終わりから始めたこのケーキ屋でのバイトは、接客が主な仕事だったけど、最近では少しだけ仕込みの手伝いも頼まれている。
本当に簡単なことだけだけど…
ホールのクリスマスケーキ予約は12月初めで締めきっている。
なので、今日は次々に受け取るお客さんばかり。
時々、ホールではなくいつものケーキを買いにくるお客さんがくる。
今日はレッスンはないけど、バイトが終わったらはるか先生の所にケーキを持っていこうと思ってる。
ホールは大きすぎるから、普通のケーキを…。
そしたら、一緒に食べる?って声を掛けてくれるかもしれないし、イブの夜に少しでも話ができたら…
もう少ししたらLINEで連絡をして、レッスンが終わる時間を聞いて、バイトだったのでついでに、とでも言ってケーキを持ってレッスン室に行く。
僕にしては、上出来なプランだ。
カラン…
あれこれ考えを巡らせていると、お店の扉についている鐘がおだやかに鳴った。
「いらっしゃいま…」
「ふふふ。タケルくん、ようやく来れた!」
そこには、はるか先生。
え…
「こんにちは、お忙しそうですね」
「わあ!タケルくんのピアノの先生だ!いらっしゃいませ~」
キッチンからトシさんが出てきた。
「あ、お邪魔したくないので、お仕事続けてくださいね。クリスマスイブで忙しい時期だから、レッスンも入ってないし、タケルくんがバイトしてるんじゃないかと思って」
「おかげ様で忙しくさせてもらってて…」
「ケーキ屋さんのクリスマスってお忙しいんでしょ?」
「はい、一年間で一番忙しいですよ」
「ほんと…顔色悪いみたい。無理されないでくださいね」
「ありがとうございます。じゃあ、接客はタケルくんに…」
そう言って、トシさんはキッチンに戻っていった。
先生は僕を見てニッコリと笑う。
「タケルくんのエプロン姿、新鮮!」
「そうですか…」
「うん、でもシックでかっこいいよ。さて、ブッシュドノエル…」
先生は、ショーケースの端から端まで見渡す。
「あれ…ブッシュドノエルは無いの?」
「あ…クリスマス前の1週間は、受注販売のみで…」
「そうなのか~残念…この前来た時、ブッシュドノエルが置いてあったから、クリスマスはこれだな、って狙ってたのに…
ん~~~
タケルくんのおすすめケーキ、ひとつよろしく!」
「はい…」
僕は、以前試食して先生が気に入るかも、と思っていたフルーツタルトを箱に入れた。
「ありがと!このケーキを美味しく食べられるようにレッスン頑張るわ!
今日は、最後の時間に太一くんのレッスンが入ってて…年明けたら全国大会なのに、仕上がりがイマイチで…」
ああ、そうか。毎年の全国大会。
ポロネーズ、仕上がってないのか。
太一くん、クリスマスイブにレッスンだなんて…
羨ましい…
いや、別にそんなにイベントごととか気にする方じゃないけど
クリスマスだし…
来年は、僕もそのコンクール受けようかな。
そしたら、クリスマスイブもクリスマスもレッスン入れてもらえるかもしれないし、
大晦日もお正月もレッスン入れてもらえるかもしれないし
いや、予選通過しなきゃダメだけど…
「じゃあ、今度のレッスンは年明けだね。素敵なクリスマスと、ハッピーな年明けを!
風邪とかひかないようにね」
「…はい、先生も」
先生はケーキをひとつ買って、お店を出ていってしまった。
そう…冬休みは通常レッスンがお休み。
一昨日、今年最後のレッスンを受けて、次会えるのは3学期が始まる頃だ。
長い…
先生の後ろ姿を見ながら、会えないだろう日々が憂鬱に感じる。
と、急に背中をバンと叩かれた。
「青年!やるしかないぞ!!」
え…
振り返ると、そこにはカナコ先輩。
「タケルくん!ブッシュドノエルの材料なら、もうカナコ先輩が在庫確認してるから!」
楽しそうなトシさんの声。
「そんなに時間かからずに作れるから、ほら、準備しな」
「接客は僕がするから、ほら、タケルくんキッチンに行って」
あれよあれよと、キッチンに引っ張っていかれる。
「先生にブッシュドノエルを作るんだよ!タケルくんが!!」
え?!僕が???
「何回か作るので手伝ってたし、だいたい手順は分かってるでしょ!頑張って作ってごらんよ」
トシさんが接客用のエプロンを付け始める。
「タケルくん、そういう健気な行動っていうのは、女心をくすぐるんだよ」
ニッコリを笑顔を見せるトシさん。
「え、でもバイト中だし…」
「つべこべ言わず今すぐ取り掛かれ!オーナー命令だ!!」
持っていた泡だて器で僕を指し、カナコ先輩の命令が下った。
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