第40話 もたらされた結果

「先生…スクリャービンの幻想曲って、いつなら弾けるでしょうか…」


コンサートはあっという間に終わり、僕は初めて聴いたスクリャービンにすっかり魅了されていた。


「う~ん、いきなり幻想曲はお勧めしないな。スクリャービンって、初期と後期ではまた違ってね。まずは初期のエチュードか、あとは即興曲をやってからがいいかも」


「そうですか…」


スクリャービンが良かったのか、ロンバルディの演奏するスクリャービンが良かったのか、そのあたりも確認する必要がある。

慌てずに…でもいつか必ず演奏したい。


楽屋に向かい、はるか先生がドア前にいる人に名前を告げると、すぐに中に通された。


「Haruka~~~~~!!!」


満面の笑みのロンバルディ教授。

はるか先生は歩みより握手しようとして、ハグされる。


先生のいわゆる『能力バカ』っぷりが発揮されているのか、頬ずりされても全く動じる気配がない。


楽しそうに5分ほど立ったまま談笑しているのを眺めていたら、ふいに僕を見ながら話し始めた。


何だろう…僕の話題?


「タケルくん、イタリアに来ることがあったら、いつでもレッスン見てくれるって」

「え?」


イタリアって…そんな遠い所…


「Vacation home? OK. If the timing is right」


先生を引き留めるような感じになりながらも、うまく話をしたのだろう。

別れの挨拶をするよう促される。


「タケルくんも、挨拶をして」

「あ…シーユーアゲイン、プロフェッサー ロンバルディ」


握手をして伝えたら、僕もギュッとハグされた。


楽屋を後にして、スマホを見る。

実は8時にコンクールの結果発表予定だったのに、9時になってもまだ発表されていないのだ。

リロードするけど、まだ出ていない。


「審査、揉めてるのかな?」

「どうかな、演奏時間も遅れがちだったよね」

「終わる時間が遅くなったからかも…あ!」


何度かリロードしていたら、急に結果発表ページが表示された。


パッと僕の名前が見える。


「え?!」


僕が声を上げたのに気付いて、先生が僕のスマホを覗き込む。


「やった!第5位入賞!!」


第1位から第5位まで名前が書かれ、そのあとは奨励賞として、数名の名前が続いている。


「タケルくん、やったよ!5位入賞って凄いよ!!」

「ほんとだ。あ、楠木さん2位だ。やっぱり凄い」


「いやいや、人のことなんて知らない~!とにかくタケルくんが凄い!やった~~~!!」

先生が両手の平を上げる!


僕は、先生の手の平に大きくハイタッチ!

そして、その手を掴んだ。


「先生!ありがとうございます!!」

「やった~~!ご機嫌でゲストハウスに帰ろう!嬉しいからお酒飲んじゃおうかな!!」

「お願いですから、しばらくお酒は止めておいてください」

「やっぱりだめ?じゃあ、一緒に炭酸飲んでお祝いしよう!」

「はい!」


それは、これまで全国大会に出てもたいした結果が残せていなかった僕が、初めて勝ち取った第5位入賞だった。


ピアノ男子の憂鬱 第4部 完


お読みいただきありがとうございました。

明日より、クリスマスSS、そして他投稿サイトにスター特典としてアップしていた「ある休日の過ごし方」をアップします。

また、スピンオフ「運命の女」第2部をその後公開し、本編第5部開始は、年明けの予定です。

よろしければ引き続きお付き合いください。

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