第29話 チケット
僕は、先生と料亭の最寄り駅で別れ、昨夜行ったピアノレンタルスタジオに向かった。
今日も2時間のレンタルの予約をしている。
とんだエロジジイだったロンバルディ教授。
でも、彼から学んだことは物凄く大きかった。
一緒に弾いたあのフレーズ。
あれは、巨匠と一緒に音を重ねなければ得られない何かだった。
とはいえ、僕の胸の中は、先生の『能力バカ』発言が、まだくすぶり続けている。
あの、ロンバルディ教授のセクハラまがいな行動さえもチャラにしてしまうという『能力バカ』の威力。
ものすごくピアノの才能があって、先生を魅了させることができれば、僕でも可能性がゼロではないのかも…
少し甘い考えを抱いてから、
「それだったら、タオくんの方が圧倒的有利だな」
その考えを打ち消す。
何しろ、あの難関のコンクールで金賞を獲るんだから…。
僕のカラッカラの才能なんて、いくら絞り出しても敵いそうにない。
「余計なこと考えない!練習に集中!!」
そう、全国大会は明日なのだ。
スタジオに着き、受付を済ませ防音室に入る。
楽譜を取り出す時に、ふと先生から別れ際に渡された封筒が落ちた。
そうだ…あとで見てね、と言われて渡されたんだった。
取り上げて封を開くと、なんとロンバルディ教授のコンサートのチケット。
しかもS席だ。
「これ…すっごいプレミアなんじゃ?」
日付は明日。
そうか、全国大会で演奏が終わったら、あのロンバルディ教授の演奏が生で聴けるのか。
間違いなく、すごい演奏をするんだろうな。
ともかくも全国大会の演奏を気持ちよく終えなければ、コンサートも楽しめそうにない。
レッスンしてもらった第2楽章の詰めをしよう。
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