第27話 料亭での昼食2

「ね、イタリア人男性って、なんでああなのかしらね、笑っちゃうわよね」


ご飯と吸い物、漬物が持ってこられて、先生はこれまで思うように食べられなかった分を取り戻していく。


「…笑えませんでしたよ」

カラカラと笑うような先生に、ちょっとムスっとしながら僕が答えると


「そう?でも、ああいうこと多いのよ。東南アジアもお国柄によっては意外と多いわよ」

「そうなんですか…」


なんだかすごく複雑な気分だ。


実際に、ハグされたり手を握られまくった先生がカラリとしていて、それを見ていた僕がイライラしてるなんて…


「ほら、イライラしないの。これくらいのこと、笑い飛ばしちゃえばいいのよ。こんないいお店の天ぷらコース食べれちゃったんだしね」

「このお店、なんか高そうですよね」

「高いわよ~!銀座という場所ってこともあるけど。ラッキーだったじゃない。ロンバルディ教授の接待費よ!」

「僕まで、良かったのかな」


海老の大きさといい、コース内容といい、グレードの高い店だということは高校生の僕でも感じる。


「いいのよ、生徒が行かないのなら私も行かないって言ったら、タケルくんも一緒に、って言ったのはロンバルディ教授なんだから」


先生は、ちゃっかりしてる。交渉上手とも言うのかな。

僕も、恐らく圭吾さんも、あの時、そんな交渉がされていたとは露にも知らず。


「ふふふ、でも嬉しかったな。I need her from now onか~」

「下手な英語ですみません」

「下手じゃないよ、嬉しかったし。英語、勉強してるの?」

「まだ、英検2級レベルで…来週2次試験です」


柴漬けさえも、上品で美味しく、こんな贅沢な場所で先生と2人で話していることにテンションが上がってくる。


「スピーキングは、慣れないと難しいよね」

「先生は、どうしてあんなに英語が話せるんですか?」


そう、圭吾さんが通訳で迷った時に、助け船を出すくらいに話せていた。


「そんなには話せないけどね。中学と高校で夏に留学したりしてたからかな。でも、今でも時々やってるわよ、オンライン英会話」

「あの、スカイプとかで話す英会話ですか?」

「そ。すごく気の合うフィリピンの先生がいるの。銀行の経理部門にいながら、土日はオンラインで先生しているのよ。彼女から色んな話を聞くのが楽しくてね」


そうか、英検2級のスピーキングは参考書についてるDVDで対策してたけど、オンライン英会話を使うのもいいかもしれない。


「おっかしいのよ。フィリピンの女性は、たいていマッチョな男性が好みだって言うの。疑うなら、他の先生にも確認してみて!って言うんだけど、私は彼女が気に入ってるもんだから、他の先生のレッスンを今、受けてないのよ。で、毎回、その話に結局戻るワケ」


「へぇ…マッチョ…」


僕は、ふと自分の細い腕を見てしまう。


「やだ!タケルくんのこと言ってるんじゃないからね」

「先生もマッチョが好きですか…」

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