第25話 巨匠のご要望

あっという間に1時間は過ぎ去り、この後、ロンバルディ教授は3時間の昼休憩を挟むらしい。イタリア人らしく、シエスタといったところか。


「ランチをぜひ一緒に、とおっしゃってるけど」

圭吾さんが、奥で片づけをしているロンバルディ教授から少し離れたところで、はるか先生に話しかける。


「ええ、もちろんご一緒するわ」

「いいのか?」

「いいわよ、慣れてるもの」


そう言いながら、はるか先生は教授のところにサクサク歩いていってしまう。

直接、ランチに同行することを伝えに行ってしまったようだ。


「タケルくん、ビックリしたんじゃない?」

「ええと、ピアノじゃなくて、いえ、ピアノもビックリするくらい素晴らしかったんですけど、あの…イタリア人男性らしい、ということですよね?」

「そう」


圭吾さんが小声で続けてくる。


「はるかは、こういうの慣れてる方でちゃんと対応すると思うから。焦らなくて大丈夫だからね」

「…はい」


「ねえ、天ぷらが食べたいっておっしゃってるわよ、天ぷらのコースがあるところ知ってる?」

「分かった、今から予約するから」


はるか先生は、ロンバルディ教授のランチの希望まで確認済み。

圭吾さんは慌ててスマホで予約を始める。


天ぷらなんて、二日酔いなのに大丈夫なのかな。


すっかり上機嫌のロンバルディ教授は、はるか先生をエスコートするように右手の平をすっと先生の前に差し出す。


ニッコリと笑った先生は、その上に左手を乗せてスッと歩き出した。


え…

ここって日本だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る