第22話 朝ごはん

朝起きて共用スペースに降りていくと、カウンターに座っている先生がいた。


「…おはよう」

僕の顔をみた先生は、申し訳なさそうな表情。

周囲に人がいるということは、姉弟きょうだいごっこを継続しないといけないんだろうな。


「おはよう姉さん、昨日は少し飲み過ぎだったね」

「うん、ごめん」

カウンターの横の席に座る。


「はい、部屋の鍵」

「あ…やっぱり」


昨晩は、先生が眠った頃に部屋を出た。

鍵をかけずに出るわけにはいかないから、僕が鍵をして、そのまま預かっていたのだ。


「ほんと…ごめん」

「いいよ、朝ごはんまだ?」

「うん、一緒に食べようと思って」


あんな姿を見られたせいか、ちょっとぎこちなかった先生が、少しずついつもの笑顔になってくる。


「待ってて、取ってくるから」


カウンターの端の方には、数名が朝ごはんプレートを取りに来ている。


「お姉さん、大丈夫だった?ごめんね、飲ませすぎちゃったみたいで」

昨日、はるか先生と一緒にウノをしていた男性が声を掛けてきた。


「大丈夫みたいです。すみません、ご迷惑をおかけしました」

「いや、弟くんがいてくれて良かったよ。ブラック?ラテにする?」

「一つずつ、お願いできますか」


どうやらコーヒーサーバーを操作して作ってくれるようだ。

その間に、食パンをトースターに入れて、既にサラダが盛られているプレートに、バターとジャムを乗せる。


「気が利く弟くんだね、お姉さん二日酔いかもしれないから、気を付けてあげてね」

「はい」


…言われなくても先生の面倒は見ます、と言いたいところだけど、そうもいかなくて、素直に作ってもらったコーヒーを受け取る。


「ありがと」

先生の前に朝食プレートを置き、2人の間に、コーヒーとラテのカップを揃える。

「どっちにします?」

「え?」

「好きな方、飲んでください」


先生は、ブラックコーヒー派だ。砂糖やミルクを入れるのを見たことがない。でも、ラテも好きかもしれないな、と好きな方を選んでもらおうと両方持ってきたのだ。

なかなか返事をしない先生に、コーヒーじゃなかった?と聞こうと思った矢先


思ってもいない言葉が発せられた。


「…やだな、カノジョにもそんな優しいの?」


え…?


先生が、斜め上のプロペラを眺めながら呟く。


むき出しになった梁に付けられた回るプロペラ。

ガヤガヤと楽しそうな会話が聞こえる中、僕は微妙な空気に包まれた。


「カノジョなんて、いませんよ。いつもブラックだけど、朝はラテの方が軽くていいんじゃないかと思って」


「そうだね、じゃあ、お言葉に甘えてラテにしようかな」


先生が僕の顔を見て、ふと笑い、そんな姿を見て僕は少し安心する。

「でも、二日酔いにはブラックの方がいいのかな…」

「ううん、ラテにする。パンも美味しそうだね」

「ジャムはこれでいい?」

「うん」


端から見て、僕たちは仲の良さそうな姉弟に見えるのだろうか。

僕は、姉の二日酔いを心配している、良い弟が演じ切れているだろうか。


馴染み始めていたゲストハウスだけど、はるか先生との「姉弟」との設定がまだ続くのかと思うと、どう心の整理をつけてよいのか不安になる。


ここに、あと二泊…


気が重い…

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