第20話 酔っ払い

「ちょっと、はるかさん、飲みすぎじゃない?」


シャワーを浴び終えて共用スペースに降りる階段を歩いていると、はるか先生を心配するような声が聞こえる。

のぞくと、眠そうにソファーに寄りかかる先生の姿…


「あ、弟くん!良かった!お姉さん、部屋まで連れってあげて~!」


僕を見上げるように、ウノをしていた男性が声をかけてきた。


「え…」

「ごめんね~、飲みすぎちゃったのかな?途中まで楽しそうに飲んでたから、お酒強いのかと思ってて。ふと気付いたら、寝ちゃっててね」


寄りかかってるというより、これはほとんど寝ているのか…

僕はソファー前に立ち、状況に呆然とする。


どうしよう、僕が連れていくの?

はるか先生の部屋まで?

え?個室って3階なんじゃないの?

っていうか、個室に入っていいの?

どうしよう、どうしよう


「はるかさ~ん、弟くん来てくれたよ、部屋に移動しよう」

さっき、ビターオレンジを作ると言っていた男性が、はるか先生の肩を揺すり、起こそうとする。


「あの!大丈夫です、連れていきますから」

僕は慌てて男性の手を跳ね除け、先生の腕の下に肩を入れて抱きかかえようとする。


「ほら、姉さん、部屋まで行くよ!」


先生のことを何て呼ぼうか迷っていたけど、そんなことを迷っている暇は無かった。

もう緊急事態…!


男性がたくさんいる場所で、こんな状態のはるか先生を放置していたら大変なことになる。

というか、シャワー早めに済ませて共用スペースに降りて来てよかった。


こうなってくると、僕以外の男性数名がはるか先生を狙っている野獣のように見えてくる。


「ご迷惑おかけしました!ほら、歩ける?」

「ん~~~」


先生は、寝ぼけているんだかあまり状況が分かっていないようだが、ムニャムニャ言いながらも足は動くみたいだ。


「ほら、ここから階段だから足上げて」

「いたっ!」

「しっかり足上げて!!」


完全に寝ぼけてる先生が階段に足をぶつけたりしながらも、僕と一緒に階段を登っていく。

2階から3階に上がっていくところで、人がいなくなったのを見計らって、小声で先生に話しかける。


「もう…先生…しっかりしてください」

「ふふふ…重い~?」


僕と分かっているのか、先生が僕の顔を見上げてふにゃふにゃと笑ってくる。


「…重くないです。大丈夫だから、部屋まであと少し、頑張って」

「う~~ん」


3階は個室とトイレのみの造りみたいで、先生が「そこ~」と指さした。

「303」と書かれた部屋が先生の部屋みたいだ。

先生がズボンのポケットから鍵を取り出し、ガチャガチャと差し込むがうまくいかない。


本格的に酔っ払いだな、これ…。

「僕がやります、ほら」

「だいじょうぶだって~」


鍵を取り上げ開けようとすると、先生が僕の手を上から握って鍵を取ろうとする。

もう!この酔っ払い!!


「ドア開けますから、静かに待っててください」

「ぶ~~~」


ドアを開けると、簡素にベッドが置かれただけの部屋だった。

荷物は窓の下にきちんと置かれていて、今のはるか先生の状況と不似合いでなんだか笑ってしまう。


ヨタヨタとベットに歩いていき、ポスンと横になる先生。


「お布団かけないと寒いですよ」


先生の下にある布団を引っ張って、上に掛けようとする。

「ふふふ~転がる~」

「はいはい、先生がですね」

「あったかい」


上から布団が掛けられて満足したのか、夢見心地につぶやく。

これは完全に酔っぱらってて、僕に連れてこられたことも分かってないな。

あ~あ、可愛い顔で酔っぱらっちゃって…


しばらく、お布団の上からポンポンと肩を叩いていたら、優しく瞑られている目が、ぼんやりと開いた。


「タケルくん…呆れてる?」

「え…」

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