第19話 設定
去年の10月にもお世話になったゲストハウスにたどり着くと、夜11時を過ぎても1階の共用スペースの明かりが外へ漏れていた。
でも、実際にドアを開けると、受付の場所は真っ暗だ。
そういえば、チェックインは夜8時までだったっけ。
「タケル~~!」
え?!
奥の共用スペースから僕を呼ぶ声が聞こえる。
この声は紛れもなくはるか先生の声だ。
でも…!
奥に数名がいて、どうやらはるか先生は、その人たちとウノに興じているようだ。
「彼が、オトウトくん?」
「高校生ってほんとだったんだ!」
「そうよ、さっきから言ってるでしょ!」
返事をせずに、受付前で立ち止っている僕に、はるか先生が大きく手を振ってくる。
「ほら~ここだよ!オトウト君!」
お…おとうとって…
「年の離れた弟って、いいなぁ~」
一緒にウノをしている横に座っている女性が、はるか先生に話しかける。
「でしょ?ほら、チェックインした時の受付用紙と、部屋番号の説明文、取りに来て!」
どうやら、僕ははるか先生の弟、という設定になっているらしい。
「あ…ありがとう」
先生から、受付用紙一式を受け取る。
「疲れたでしょ?シャワー空いてるみたいだよ、荷物置いて行ってきたら?」
「う…うん」
「共用スペース、12時まで使えるんだってね。まだウノしているから、行ってきちゃいなよ」
「う…うん」
「よし、続きしよ!」
「どこまで行ったっけ?」
ウノは、4人でしているようだ。男性2名に女性2名というメンバー。
そのうちの1人がはるか先生なワケだけど…
「ね、ついでだから、ちょっと休憩にしない?飲み物追加したいし」
「そうだね、はるかさん、次何作る?」
先生の向かいに座る男性が、オーダーを聞く。
「ビターオレンジにしようかな!」
はるか先生は、共用スペースに置いてある自販機を見ながら言う。
「それいいね、私と分けない?」
「トコちゃんも好き?ビターオレンジ」
「飲んだことないんだ、って言うか、ビールでこんなアレンジするの初めて~!」
横にいる女性は、はるか先生より少し年下だろうか。なんだか、はるか先生にやけに懐いているようだ。
「じゃ、女性陣はビターオレンジですね、俺たちはただのビールでいいよな?」
男性の1人が、もう1人の男性に話しかける。
「いいよ」
「え!ジュンちゃん、今度も作ってくれるの?!」
「お作りしますよ、お姫様お二人様」
ジュンちゃんと呼ばれる男性も20代か、30代手前と言うところだろう。
受付近くにある自販機に向かいながら、僕に話しかけてくる。
「オトウトくん?大丈夫?疲れてるんじゃない?」
状況がよく飲み込めなくて棒立ちしていた僕を気遣ってくれているようだ。
「あ、いえ、シャワー浴びてきます」
「うん、行ってきちゃいなよ。オレンジジュースで良ければ、君の分、少し残しておくからさ」
はるか先生は、僕に笑顔で手を振ってくる。
軽く会釈して、今日泊まる部屋に向かう階段を登りながら
この、良く分からない設定に混乱していた。
「どうして弟…先生のこと、なんて呼んだらいいんだろう…」
お姉さん、お姉ちゃん、姉さん、お姉ちゃん
「ど…どれが正解…?!」
多分この設定、ここに泊まっている間、ずっとなんだよな…
部屋に荷物を置く頃になると、状況が少しずつ分かってきて、顔が真っ赤になっていた。
「名前、呼び捨てなんて…反則…」
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