第15話 お弁当タイム5
「さむ~~~い!」
僕たちの住む地方都市は、雪もあまり降らない日本の中では暖かいと言われる地域ではあるけど、やはり冬はそれなりに寒い。
3学期に入り毎日寒い日が続き、ほたるは口を開けば「寒い」ばかり言っている。
「ほたるちゃん、元気出しなよ、ほら、ホッカイロ貸したげるから」
「陸郎くん…ありがと…」
「あと、温かいお茶飲む?水筒に多めに作ってきたけど」
「うん、もらう」
いつものランチタイム。
面倒見のいい陸郎は、寒い寒いと騒ぐほたるに、あれこれ温かいものを渡して機嫌を取っている。
僕たちは別れた後も、それまで通り一緒にお弁当を食べていた。
付き合っていたころは妙な空気感が流れていたのが嘘みたいに、別れてからの方が自然で楽しく話ができている。
「タケル、お前食べないの?」
弁当をなかなか広げない僕に不思議そうに陸郎が聞いてくる。
「…うん…」
実は、今日は英検2級の1次の結果発表の日。
多分、正午に団体責任者が合否をチェックできるはずだ。
「中路くん、いる?」
教室のドアが開き、先生が僕の名前を呼び、手招きをする。
合格!合格していたい!!試験後の自己採点では合格できてるはずなんだけど…ええと、お弁当はそのままでいいかな…
「合格してたからね!」
もたもたしていた僕に、先生が大声で話しかけて去っていく。
「そっか、英検発表の日だったんだ!!」
「タケル、一言言ってくれりゃーいいのに」
陸郎もほたるも、今回の英検を受けていなかったから、今日が結果発表だと知らなかったようだ。僕も、わざわざ言うことでもないし、落ちてたらカッコ悪いかな、と話題を避けていたんだけど。
「良かった…」
ホッと一息。2次試験の準備もしなくちゃ。
「タケル、頑張ってるね。私も次は受けようかな」
「ほたるちゃん、結局文系にするんだっけ?」
「うん、文系。陸郎くんは?」
「理系を選んだよ。あ~あ、クラス離れちゃうんだね、タケルも理系だよな?」
「理系で提出したよ」
高校2年からは、理系、文系に別れる。どちらを選ぶかは、2学期の終業式までに提出することになっていた。
親にはまだ話していないけど、オンラインの大学に進みたい気持ちが日に日に増している。もともと、3者面談では地元の大学の工学部を希望していたから、親は理系を選ぶと思っていたようで、理系の提出はスムーズに進んだ。
「こうやって3人で弁当食べるのも、3月までかなぁ」
寂しそうに、陸郎がつぶやくと、ほたるはきょとんとした顔で聞いてきた。
「え?クラス別れても、食べにきちゃダメ?」
もぐもぐと美味しそうにお弁当を食べるほたるの顔を見て、陸郎は思い切ったように言った。
「タケル!2年生から食堂で食べよう!3人で!」
「え…」
何だか、陸郎の勢いに巻き込まれている感じがする。
「そうだよね、お弁当もって食堂で集合すればいいんだよね」
ほたるも、その提案に乗るつもりのようだ。
「うん、別にいいけど…」
どうやら、僕たちのお弁当タイムはまだまだ続きそうだ。
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