第9話 コンクール予選ー心のささえ

「タケルが出てきたら、ここを開いて、このボタンを押すだけでいいのね?」


僕は、ほたるが座る席を決めて、三脚を広げビデオカメラを設置した。

なるべく手元が映るようにアングルを決めて…


「そう、押すだけ。で、終わったら、また押すだけ」

「押すだけだけど、緊張するね」

「そう?」

「そうよ!」


コンクール会場に初めて来たほたるは、緊張気味。

ブザーが鳴り響き、演奏が始まる。


ショパンのエチュードとベートーヴェンのソナタといったオーソドックスな選曲から、派手で演奏会向きのリストのリゴレット・パラフレーズなど、課題曲がないコンクールならではのさまざまな曲が演奏されていく。


バッハで良かったのかな…


全体的に派手目な曲が続いていく中で、僕は自分の演奏する曲が地味すぎやしないか、浮かないか、など余計なことを考え始めた。

数名聴いた感じでは、演奏者のレベルは全体的に高めで、数年前に受けた時とは大違い。

もしかすると、このコンクールに出す指導者の顔ぶれが変わっているのかもしれない。


5名の演奏が終わり、僕は自分の演奏のために移動を始める。


「じゃ、舞台袖行くから、録画頼むね」

「うん…」


何やら不安そうなほたるを置いて、ホワイエから舞台袖に向かう。

大丈夫かな…


って、僕は自分の演奏を心配をしないといけないな。


カバンからゼリー飲料を取り出そうとして、ふと手が止まる。

最初、白いパッケージに触れたけど、やっぱり思い直して黄色と金色のパッケージのものに持ち替えた。


ごめん、ほたる…


数個あるゼリー飲料の中から僕が選んだのは、昨日のレッスンで先生がプレゼントしてくれたものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る