第8話 コンクール予選ー受付

コンクール予選当日、ほたるとはホール会場の最寄りの駅の改札で待ち合わせをした。

幼馴染みで幼稚園から一緒だったほたるだけど、僕のソロ演奏を聴くのは初めてのはず。

合唱の伴奏は学校で見てきただろうし、そういえば、僕の伴奏で合唱曲を歌っていたこともあったっけ。


改札口に現れたほたるは、珍しくワンピースを着ていた。


「陸郎くんに、コンクールの様子を聞いたの。制服だと浮くっていうし…」

「女子は大変だね」

「タケルは、思ったよりフツーの格好ね?」


普段着の僕を、訝し気に見る。

「うん、ホールで着替えるから」

「ああ…そっか。で、ビデオの設置まではしていってよね?アングルとか全然わかんないからね?」

「うん。ボタン押すだけにするから」


演奏を録画できるコンクールだったため、ほたるに撮影を頼むことになっていた。

先生に見てもらいたい、というのもあるけど、予備予選やマスタークラスの審査で動画を提出することもあるから、なるべく録画OKのコンクールは録画することにしている。


今回のコンクールはレベルで言うと中くらい。

全国規模ではあるけど、夏に受けたコンクールのようにトップクラスの人たちばかりが集まるものでもない。

僕自身も、このコンクールを受けるのは小学生以来で、2回目。

自由曲が選べるため、予選時期に取り組みたい曲がある場合にうまく利用させてもらっているという感じだ。


ホールに到着すると、受付の列ができている。

「先に受付してくるから、そこのイスに座って待ってて」


ほたるを置いて受付に行く。

並んでいるメンバーは、時々コンクールで見かける顔もあるけど、見ない顔もいる。

どんなレベルの演奏をするか測れないな…。


受付で参加票を出すと、プログラムを渡される。


「うわ…」


そこには、リストの超絶技巧などの曲目がズラリと並んでいた。


え…バッハ選んでるの、僕だけ?!


今年は、もしかするとレベルが高いのかもしれない。

イスに座って待つほたるを見て、僕は苦笑いを浮かべた。

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