第27話 お好み焼きと恋バナ2

「それで先生の話戻すけどさ、独身なんだよね?付き合ってる人いないの?」

「そうだよね、36歳だと、結婚を前提で付き合ってても不思議じゃないよ」


ほたるとのことを相談して重たい雰囲気になったけど、先生のとのこれからについても相談に乗ってくれるみたいだ。


「それが…独身は独身なんですけど、全然分からないんです。というか、プライベートが分からなくて」


そう…先生のプライベートはベールに包まれてると言っていい。

東京育ちの先生が、なぜ今、地方都市に住んでいるのかも分からないし、大学卒業したてで実家でもないのに、庭付き一戸建てのレッスンスタジオを持っているのも不自然だ。

しかも横に建っているのは、叔母さんの家、と言うのも昔から疑問に思っていたこと。


「彼女のことは、ちゃんと解決させるとしてさ。そのあとは、少しずつでもいいからそのあたりを探りたいね」

「結婚前提とかいう相手がいると、高校生の立場で奪うのは難しいかも」

「でもさ。なにもしないでいたら、気付いた時には結婚されちゃったりする可能性もない?」

「それはあるーー!!」


僕も当然、それを恐れていた。

先生と付き合うなんて現実的に無理だと思いながらも、先生には既に付き合っている人がいるかも、と覚悟はしている。


いつ結婚してしまうだろう、ここからいなくなってしまうかもしれない。

一緒にピアノを弾いてくれるだけで充分と思うけど、結婚してしまえば、そうもいかなくなる可能性がある。

ダンナさんと一緒にいる先生を見る、なんて想像しただけで落ち込む。


一方で、こんな立派なレッスンスタジオもあるのだから、きっとここにいてくれるだろう、という希望も。


「うーん、付き合いたい、ではなくて、とりあえず君の気持ちを匂わせるような行動を積み重ねていくのはどう?18歳になるまで、とか、高校卒業するまでさ」

「それは有りかも。先生があからさまに嫌な態度を取るかどうか、見極めるとかね」

「年は関係なくさ、嫌な相手とか、恋愛関係で考えられない相手だと、何されても気分悪いもん」


気持ちを匂わせる行動…


「あの、具体的にどんなことを…」


「2人きりの時に、さりげな〜く手に触れるとか?」

「えー!あざとくない?それ」


「それ…されました、いや、レッスンの時に先生から…」


34歳という女性が、バンとテーブルに手を付き、身を乗り出した。


「で、君はどうしたの!!」


「つい…手を離したくてなくて…あの…手が離れないように強く握り返して」


「キターーー!!!」

「よし、良くやった!」

「高校生男子にそんなことされたら、ヤバいーー!」


「いや、しかし、まだだな、ええと、先生と2人になることはある?」

「あ、レッスンは2人きりなんですけど…この前、ケーキを持っていったら、レッスンの後に2人で食べることになって」


うんうん、女性達はグイグイ僕の方に近づいてくる。


「僕が、あのオペラっていう、ほろ苦いケーキを選んだら、大人っぽいねって」


「あーーー」

30歳の女性がうなだれた。


「それは微妙…子供が背伸びしてる、と思って出た言葉なのか、素直に高校生だけど大人っぽいと感じたのか…」

「読めないね」

「でも、君、物静かだし落ち着いてるから、素直に大人っぽいと思われたかも?」


そうなのか、単純に喜ぶことでもなかったのかもしれない。

「言われて、僕はすごく嬉しかったんですけど…」


「だよねー!嬉しいよね!」

「うわー!もう何だかたまらなくなってきた〜!」

「応援したい〜!!」


「これはさ、もう少しずつ気持ちが伝わるように持ってくしかないんじゃない?」

「軽くスキンシップとかさ」

「2人きりで会う時間は逃さないこと!」


ふむふむ。現役30代女性の話を聞く機会はないから、この話、一つも逃しちゃダメだな。


「あとさ、今だ、と思ったら、絶対にモノにすること。その時のために、少しずつ距離を近付けていく!」


「高校生ってところが、辛いよね、大学生になってたら。また違うんだろうけど」

「でも、私は話聞いてて、すごくいいなぁって思った。もちろん、カノジョのことは清算しないと、だけどさ。」

「私も!君が一生懸命な感じも伝わってくるし…ねぇ。いつから好きなの?」


それは僕もはっきりしない。ただ、色々とキッカケになることはあった。

「気付いたらというか…多分小学5年とか6年のころにはもう…」


「だめだ…鼻血でそう、何なの、その一途な感じ…」

「ねぇ、私たち、まじで応援するよ。あのさ、君、これからも東京に来て、このゲストハウスに寄ることありそう?」


「あ、ここ居心地いいし、来ると思います」


38歳の女性は、隣のテーブルに置かれていたノートに手を伸ばした。そのノートの表紙には『ゲストハウスの思い出No.28』と書かれている。どうやら泊まった人が自由にかけるもののようだ。


「今日の思い出として、書き残しておこう」


『20〇〇年10月8日 ピアノ男子高校生の恋の応援団結成!ユカコ(38)』

「なるほど!いいね!」


隣の女性が鉛筆を受け取る

『ハナ(34)』


「私も!」


『ミヤ(30)』


「この4人がこうしてここに集まることは、もうないと思うんだけど、これも何かの縁だよ。ここに寄ったら、私は一言書き込んでいくね」

「いいね!私も書き込む。それぞれ、来るたびにメッセージ探せばどうなったか分かるよね」

「君、途中経過でもいいから、来た時には書き込んでよね、私たち、いつでも応援してるからね」


こんな風に、僕の片思いを応援してくれる人達がいるんだ…。

ずっと僕は、一人で思い悩んでいて、誰かにこの気持ちを明かそうなんて思ってなかったけど。

思い切って、自分の思ってることを話してみてよかった。


「はい!」


きっとこの旅は、僕のターニングポイントになる。

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