第26話 お好み焼きと恋バナ

1人の女性が、お好み焼きを切り分けて、紙皿に乗せ僕の前に置いてくれる。


「ありがとうございます…あの、皆さんはもともと友達では?」

「ちがうよー、さっきここで知り合ったばっかり」

「気楽なもんよ」

「お互いのバックグラウンドを知らないで話せるしね」


そうか…そういうものなのか。

『気楽』という言葉に引っ掛かった。


お好み焼きに鰹節をかけて、ソースとマヨネーズをかける。

躍る鰹節を見ながら言ってみた。


「あの…高校生の相談って…乗ってもらえますか」


女性の目がキラリと光った。


「え?!何なに?甘酸っぱい何か?!」

「ちょっとぉ!おばちゃん丸出し!」

「いいのよ、後腐れないから、お姉さん達に何でも話して?」


普段なら、あまり相談できない。

できても、陸郎くらいか…


でも、ここなら誰かに話が漏れる可能性もほぼ無いし、馬鹿にされてもその場限りだ。

しかも、この人達は年齢も先生に近い。

陸郎に相談しても分からない部分の意見が聞けるかも…


「実は…ピアノの先生のことが好きで」


「きゃーー!きたーー高校生の恋バナ!」

「で、先生はいくつなの?」


「36歳だと思います」


おおお…私たちの間くらいか、と38歳と34歳の女性が、2人の間の空間をお互いに指差す。


「高校生なんて、恋愛対象にならないですよね…」


「あーー…

そうね〜うーん、人によるかなぁ」

「私は無理かなぁ」

「そう?私は有りかな」


意外にも、1番年上の38歳の女性は、高校生でも有りだと言う。


「ただ付き合うとしたら、やっぱり18歳になってから、とか大学生になってから、にすると思う。でも、好きって言われて嫌な気持ちはしないかな」


なるほど…


「付き合ってください、ってゴリ押しすると、しっかりとした女性ほど困る可能性はあるね」

「それはある。先生って立場も考えると、生徒と恋仲にはなれないよね」

「保護者の手前もあるしね」


なるほどなるほど…僕が考えたこともなかった感想が次々と話される。

意外だけど…こんな年齢差のある僕でも先生と付き合える可能性があるのだろうか?


「あの…でも実は、僕、彼女もいて…」


僕は意を決して告白した。

付き合えるわけないじゃん、と言われるのであれば、やっぱりそうですよね、と話は終わったはずだったけど。

少しでも可能性があるのであれば、ほたるとのことも相談したいと思ったのだ。


「はぁ?!え、君、片思いしてるのに、他の人と付き合っちゃってるの?」


年上女子の皆さんは、あきれ顔だ。


「先生は年上すぎるし、叶うはずがないと思ってたところに、幼馴染みから告白されて。付き合ったら、先生のこと忘れられるかな、と思ったんですが…」


「…忘れられない?」


一番年上だといった38歳の女性が、僕を試すような顔付きで聞いてくる。


「はい…高校に入って、ますます先生のことが好きになっていくし…つい彼女と先生を比べちゃうこともあって、そうなるとますます…」


「うわ~その彼女、可哀想だよ」


「ですよね…」


ほたるは部活も忙しくて休日も試合が入ることも多いから、デートというデートもほとんどしていない。登下校も別々だし、あまり一緒にいる時間がないから、本当に付き合っているのか分からなくなることもある。


「でも彼女のこと、少しは好きなんでしょ?」


「幼馴染みだし、普通に話せる女子だから。付き合ったらちょっと変わるかと思ったんですけど、でも、どうも幼馴染みの感覚のままで」


「ちょっとは、好きとかないの?」


僕は、考え込んでしまった。

ほたると付き合ったら、少しは恋愛感情みたいなものが生まれるかも、と期待していたのは確かだ。

でも…


「花火大会で手を繋いだけど…」


あの時…僕はどう思った?


「横にいて手を繋いでるのは、先生じゃなくて彼女なんだなと…実感して…夢ばかり見てないで現実を見ようと」


「それで、私たちに最初に相談したのが『先生がことが好き』ってことなんだよね?」

「はい」

僕の返答を聞いて、年上女子3人がテーブルにうなだれた。


「重症…」

「だめだ、彼女が可哀想」


やっぱりそうだよな…


「だいたい、だったら、どうして付き合うのOKした?」


「それは!先生のこと忘れられるかと期待して…!」


「でも、やっぱりその先生が好きってことか…あのさ、そういうのって男として誠意がないと思うから、なるべく傷つけないように彼女に言って別れた方がいいと思う」


「うん、私もそう思う」


この女性達の言う通りだ。

なんとなく流されるまま来てしまったけど…。


「そうですよね、どうしても幼馴染みで空気みたいな存在なんです。それ以上に感じられなくて」


「残酷だけど、それを正直に伝えたら?」


「そうですよね…」

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