第21話 ゲストハウス

タオくん家族と夕食を一緒に食べ、ゲストハウスに戻ると1階の共用スペースには人がたくさんいた。

「おかえり~」

「あ…ただいま帰りました」

カウンターの男性に返事をする。


共用スペースでは、どうやら数名でウノをしているみたいだ。

自動販売機もあり、各自飲みたいものを買って、好きなように過ごしている。


見ると、ウノの横では日本のガイドブックを一生懸命読んでいる外国人もいる。その横にいるのは日本人かな?

「ね~、浅草と上野はもう行ったんだって。どこがお勧め?」

ウノをしている4人組に大きな声で話しかける。


「泉岳寺とか増上寺とかは?東京タワー近いし、歴史好きならいいんじゃない?」

それを聞いて、男性がガイドブックのページをめくり、英語で説明を始める。


なるほど…カナコ先輩が言ってたのは、こういうことなのか…。


「あ、帰ってきたの?」

さっき、ベッドで声を掛けてくれた男性が、ウノの4人組の先にあるカウンターテーブルでスマホ片手にコーラを飲んでいた。


「はい」

「今、シャワーが混んでて順番待ちだよ、今日は連休だから人が多いかも。争奪戦になるよ」

「そうなんですか」

「俺が今んとこ最後だから、そのあとに入りなよ」

「分かりました」


朝から飛行機に乗って疲れてるから、早く寝たかったんだけど、どうやらそうもいかないようだ。

「兄ちゃん、東京観光?」

「いえ、勉強というか…」

「勉強?」

「まぁ、そんなところです」


背後から急にギターの音が響いた。


振り返ると、外国人2人がギターで弾き語りを始める。

「あ、今日も始まったな。即席ライブ」

「え?」

「あの人たち、ヨーロッパから来てるらしいんだけど、そこに掛けてあるギターを見つけてさ、4日前くらいから即席ライブしてるわけ。ビートルズとか、結構うまいんだわ」

「へぇ…」


ウノをしていた4人組も、ゲームを止めてギターに合わせて手拍子を始める。

「兄ちゃん、慣れてない感じだね?もしかしてゲストハウス初めて?」

「はい」

「そっか、そりゃびっくりしたかもな。でも慣れればいいところだよ。いろんな人との出会いもあるし」

「…そうみたいですね」


僕の人生で、外国人が急にギターで弾き語りを始めて、その輪に自然に入り手拍子をするなんてことは、これまでなかった。

階段から降りてきた男性が、隣の男性にハンドサインをする。

どうやらシャワーが空いたようだ。


「なんだ、タイミング悪いな、ビートルズ聴きたかったのに」


僕は自販機でジンジャーエールを買い、ビートルズを楽しく聴いた。

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