第18話 講習開始

1日目の午前中は座学だった。

形式の仕組みや、調性についてなど音楽を表現するのに理解しておきたいことばかり。

はるか先生のレッスンでも、曲を理解するために繰り返し説明を受けてきたけど、この講習での講師は作曲家。

また違った目線で話が進んでいくのが面白かった。


昼休憩になり、部屋を移動して配られたお弁当を食べる。

「わ~難しかった~!僕、ついていけるかなぁ~」

タオくんは、肩をぶんぶん回しながら、心配を吐露する。


最年少だし、ピアノはよく弾けるとはいえ座学についていくのは大変だろう。受講生には大学生や大学院生も混ざっているし、音大や音高の生徒もいそうだ。


「タオくん、中学生でこの講習に参加できてるんだから、その時点ですごいよ。僕で分かるところは教えてあげられるからね」

楠木さんはタオくんに優しく語りかけている。音楽高校に通っているはずだから、学校でも勉強している内容が含まれていたのかもしれない。


「楠木さん…ありがとうございます…」

タオくんは、優しい楠木さんに涙目だ。


「僕も、できる限りサポートするから…助けになるか分からないけど…」

内容がしっかり理解できてなければ、サポートできないよなぁ、と思いながらもタオ君に話しかけた。


「タケルくん…あとでLINEしまくる!!」


楠木さんはお弁当を開きながら、スケジュール表に目を通して演奏順をチェックする。

「午後からは公開レッスンだよね、タオくんは2番目…中路くんは5番目か」

「緊張するなぁ~」

タオくんは緊張するといいながら、お弁当をパクパクと食べる。


「楠木さんは明日の午後ですね」

「そう…今日も帰って練習だよ」

「そっか、通いで来てる人が明日になってるのかな?」

「それもあるかもね」


僕もタオくんも遠方からの参加。今晩はホテルに宿泊だからピアノが弾ける環境にない。その辺が考慮されているのかもしれない。


公開レッスンを受けるなんて、音楽祭のジュニアコースに出て以来だ。しかも今回は、音大生や音大院生も混じってて、メンバーの演奏レベルが高そう。


「ふぁ~たくさん食べたら眠くなってきちゃった…」


2番目に演奏するタオくんは、お弁当を完食し平和なことを言う。

この余裕さ。すでに大物の予感…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る