第16話 講習受付

僕が講習会場に着くと、すでに5名ほどの参加者が椅子に座っていた。


「おはようございます」

受付の人に挨拶して、受講票を手渡す。


「はい、中路タケルくんですね。椅子は番号順になってますから、自分の番号のところに着席してください。これは今日の資料です」


形式、調性、和声について、というページもある。

5枚目の資料には、参加者の名前と学年、高校名、演奏曲の一覧があった。


うわ…


参加者は軒並み知ってる人ばかりだった。去年参加していた人も、また参加しているようで、演奏曲もベートーヴェンの後期ソナタを選んでいる人も数名いる。


思ってたとおり、すごいレベル…


僕の番号札がつけられた椅子に座ると、既に横に座っている人に声をかけられた。

「はじめまして…ですよね?」

「…はい」


僕の番号の前の人だから…参加者一覧で名前を確認する。


「え…あの楠木さんですよね?」

「楠木ですけど…」


8月の全国大会で3位だった人だ。


「同じ学年の人がいる、と思って。僕は今年初めてこの講習を受けるんですよ。どうぞよろしくお願いします」

「あの…僕も初めてで…というか、場違いな感じで…お願いします」


いきなり隣に大物。すっかり圧倒されてしまったけど、楠木さんは気にすることなく話を続けてくる。


「同じ学年だし、よければ敬語なしにしません?2日間一緒に勉強するわけだし」

「も…もちろん」


というか、むしろ僕がこの人に敬語で話さないといけないのでは…


「あれ?中路くん、この高校…毛利 絹さんって知ってる?」

「絹さんは、隣のクラスで」

「え~!僕、中学くらいから絹さんとよく全国大会で会ってて。出番が前後になった時に話したことがあるんだよね。今年はグループが離れてて会ってないけど、元気にしてる?」

「はい、元気です」

「彼女の演奏、いいよね~キリッとした性格が出ているようで、しなやかなところとかさ」


こんなところで絹さんという共通の話題ができるとは。絹さんはやっぱり全国大会レベルの人なんだな。


「…あれ?」


参加者一覧を眺めていたら、下の方に見たことのある名前を見つけた。

…まさか!!


「おはようございます!」


その彼の元気な声が受付で聞こえて、僕は固まった。

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