第12話 お弁当タイム3

「神様、仏様、ほたる様~~!」


陸郎は、ほたるから北海道の唐揚げ『ザンギ』を分けてもらい、上機嫌だ。


「ママに、陸郎くんがザンギ絶賛してたって話したら、大量に作ってくれたんだよ」

「神様、仏様、ほたるママ様~~!!」

「はい、タケルにも一つ!」

「ありがとう」

「しっかしタケル、ケーキ屋でバイトしてるのに全然太らないな~」


そう、僕は夏休み後半からケーキ屋でバイトを始めた。

オーナー夫婦はとてもいい人で、土日は昼ごはんを出してくれるし、平日は学校帰りでお腹が空いているだろうと試作品という名のケーキを食べさせてくれるのだ。


以前よりカロリー摂取は増えていると思うけど、僕の体重は相変らず増えない。


「ねえ、私も今度ケーキ屋さんに行っていい?」

「いいけど…」


ほたるは、部活が忙しくまだケーキ屋に顔を出していないはずだ。少なくとも、僕がバイトしている時間に来たことはない。


「タケルが『いらっしゃいませ~』なんて意外だよな」

「ホント、私が行っても歓迎してよ」


普段の生活でもあまり笑顔を作ることのない僕は、接客のための「いらっしゃいませ」を自然な笑顔で言えるように、鏡で練習中だ。

何しろ、笑顔が作れないとオーナーのカナコ先輩にどやされる。


「ゆきちゃんも、まなみちゃんも何度かお店に行ってるって聞いた…」

二人とも、クラスメイトでほたるとも仲がいい女子だ。


「ああ、来てたよ」

「ほたるちゃん、早く行かないと!」

「そ…そうだよね…なんか行っていいのか迷っちゃってて」

「なんで!今日にでも行きなよ!」


ほたるが少し黙ってから、僕に聞いた。

「あのさ、どうして急にバイト始めたの?」


「ピアノの講習を受けることが増えそうなんだ。東京に行くこともあるし、旅費とかかかるから…」

「タケル、お前、ピアノの道に進むとか?」

「いや、そういうことではないんだけど、もっとちゃんと取り組めたらなって」

「へ~」


「…私、今日日直だから、職員室行ってくるね」

ほたるは急に立ち上がり、お弁当をささっと仕舞い教室から出てってしまう。


「お前さ、バイト始めること、ほたるちゃんに話さなかったの?」

「夏休み中だったし」

「話しておいた方が良かったんじゃね?」


実は話そうか迷っていた。でも、以前からピアノのことについて、ほたるはあまり触れたがらないように感じていたし、バイトを始める理由がピアノに関わることだったから、余計に言いにくかったのもある。


「……うん」

「まぁ、過ぎた話をしても、しゃーないか」


そう言って、陸郎は3つ目ザンギを食べ始めた。

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