第10話 ケーキ屋のお客さん

「お疲れ様です!カナコ先輩」


今日はバイトの日。

この前、はるか先生へ、と持たせてくれたケーキのお礼が言いたくて、高校から急いでバイト先に向かった。


キッチンで作業していたカナコ先輩は、僕を見るなり「青年、どうだったか?」と聞いてきて、「何もかも完璧でした!ありがとうございました!」と答えたら満面の笑みを見せた。


特別なことは話してないのに、この人は僕のことが筒抜けで見えているのかもしれない。

早速エプロンに着替えて、トシさんからショーケースに並べるケーキを受け取る。


カラン…


「いらっしゃいませ」

来客を知らせるドアの鈴で振り返る。


「こんにちは。美味しそう…どれにしようか迷うわね。ええと、これとこれ、2つずつください」

「はい」


そこには制服姿の絹さんがいた。

僕がケーキを箱詰めしていると、トシさんがキッチンから出てくる。

「いらっしゃいませ。タケルくん、お友達?」

「はい」


「こんにちは。美味しそうなケーキばかりですね」

「ありがとうございます」


「私、地元なんです。母も時々立ち寄らせていただいていて」

「そうなんですか。いつもありがとうございます」

「まさか、タケルくんがここのケーキ屋さんでバイトを始めるなんて。ビックリしました。今度から私が買いにきますので、よろしくお願いします」


絹さんはさすがだ。

トシさんと饒舌に会話をしている。


「ふふ…でも女子高生のお客さん、さらに増えるかもしれませんよ、ほら」

絹さんが外を指さすと、数名の女子高生が見えた。


「タケルくんがケーキ屋さんでバイトしてるって噂になってて。でも皆入店するまではできなかったみたい。私が入ったから、次々入ってくるかもしれません」

「タケルくん…高校でそんな人気なの?」


トシさんが、今までに見たことのないような目で僕を見てくる。


「彼がピアノを弾くのがカッコイイって人気なんですよ」

「すごい…タケルくん…リア充…僕の知らない世界…」

「いや、彼女の方がよっぽど凄いんですよ、この前のコンクールでも全国大会でベスト賞まで入って」


「え?!ピアノ弾かれるんですか?」

「ええ、たしなむ程度に」

「…たしなむ程度の人は全国大会で入賞しないよ」


絹さんは、本当に食えないというか、話が上手すぎるというか…。

大人に対してもこれだもんな。


絹さんが外を見ながら言った。

「彼女たち、あまり騒ぐようでしたら、きちんと釘を刺してくださいね。言いにくかったら私が間に入りますから、遠慮なくお知らせください」


「あ…はい。ありがとうございます」

「では、また寄らせていただきます」


トシさんは絹さんに圧倒されている。

「なんだか、最近の女子高生ってしっかりしてるね…めっちゃベッピンさんだし」

「あの人は特別だと思います」

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