第7話 どんなタイプ?

今日は学校帰りにバイトに行き、そこからはるか先生のピアノスタジオに行く日。

10月にある講習会のために、演奏を録画提出する期限が迫っていて、グランドピアノでの演奏がいいだろうと、レッスン室で録画することになっているのだ。


レッスンが終わるのは20時だというので、それ以降なら何時でもいいと言われていた。


「へ~、録画で提出するんだね」

トシさんが面白そうに聞いてくる。

「はい、テープ審査とか音源審査も多かったんですけど、最近はYouTubeがあるから録画審査も増えてきていて」


トシさんはいつもニコニコしていて、すごく気さくな人だ。

この前、年齢も教えてくれて33歳。5年前にこのケーキ屋をオープンしたそうだから、28歳で店のオーナーになったことになる。

すごいですね、と言ったら

「僕にはカナコ先輩がいるからね」とニッコリと笑われた。


「タケルくん、ピアノの先生ってどんな人?」

キッチンからカナコ先輩が聞いてきた。


ショーケースからキッチンは少し距離があるので、声を張らないと聞こえない。

「ええと、小柄で36歳くらいの女性です!」


いつも小声な僕は、気合いを入れて声を出さないと、カナコ先輩に怒られるのだ。


「青年よ!女性の年齢をそんな大声で言うものではない~!」


頑張って声を出したら、今回は怒られた。そして続けて質問。


「綺麗タイプ?かわいいタイプ?」


えええ…


「あの…」

「何を恥ずかしがってる!」


カナコ先輩にせっつかれ、言葉を絞り出す。


「か…かわいいタイプです!!!」


「………」


カナコ先輩は、驚いたように僕を黙ってみている。


「あはは!タケルくん、顔真っ赤だよ!!」

横でトシさんが笑った。


「なるほど、そのような事情か。よく分かった」

そう言って、カナコ先輩はキッチンで作業を再開した。


カラン…


「い…いらっしゃいませ」

僕は、最近ようやく慣れてきた笑顔を入ってきたお客さんに向けた。

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