第4話 カナコ先輩
ケーキ屋から高校までは歩いて5分くらい。
そういえば、女子が放課後に寄ろう、と言ってるケーキ屋なのかもしれない。
けたたましく鳴く蝉の声を聞きながら高校に行き、バイト許可願にケーキ屋の名前を住所を書き込み、急いでケーキ屋に戻った。
まさか今日からいきなりお店で仕事をするなんて思ってもみなかったから、ちょっとパニック状態だ。
お店の名前は「pois de senteur」
ポワ・ドゥ・サントゥールと読むそうだ。ホームページによると「スイトピー」という意味らしい。
「噛みそう…」
ポワ・ドゥ・サントゥール、ポワ・ドゥ・サントゥール、何度も言ってみた。
お店のドアを開けると、また誰もいない。今度はレジどころかキッチンにも人影がない。
横の扉が開き、トシさんに手招きされる。
「こっちこっち!」
さっき面接をした部屋のテーブルに、お皿が3人分置かれていた。
時計を見ると、ちょうどお昼時間。
「タケルくん、好き嫌いない?」
「ないです。」
「カナコ先輩のゴーヤチャンプル、美味しいんだよ~」
カナコ先輩が、お箸を持ってテーブルに来た。
「ハイ、これタケルくんのお箸ね。さ、頂きましょう!」
「いただきま~す!」
トシさんは、ニコニコしている。
「いただきます…すみません…」
初めて来たバイト先で、仕事を始める前にいきなりゴーヤチャンプルという状況がよく掴めず、おずおずとお箸を持つ。
「タケルくん、高校男子なんだからたくさん食べてね。遠慮はなしだからね」
「そうだよ、僕なんてカナコ先輩のごはんが美味しいから、結婚してからこんなに太っちゃって…」
「トシくんは、少しダイエットしないと体に良くないかも」
あれ?やっぱりこの二人、夫婦なんだ。
『カナコ先輩』なんて呼んでるから、どんな関係なのか訝しんでいたけど…
「あの…なんて呼べばいいですか?トシさんと…」
「カナコ先輩でいいわよ」
「え…」
一体、何の先輩なんだろう…
状況がよく掴めない僕にトシさんが教えてくれた。
「僕はね、カナコ先輩と同じホテルのパティシエ部門で働いてたんだ。その時から仕事場ではカナコ先輩なワケ」
なるほど…仕事の先輩と結婚したわけか。
カラン…
ドアが開く時になる鈴の音が聴こえた
「は~い、いらっしゃいませ~」
カナコ先輩がお店の方に行く。
「…あ!」
僕も出ていかないといけない、と思って立ち上がると、トシさんが僕の腕を持った。
「まだ制服だから。まずはごはん食べて。それからエプロン付けてバイト開始ね」
そっか…。
「はい」
こうして、僕のバイトが始まった。
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